第二十四回
ある日、一頭の白い犬を連れた飼い主さんが来院されました。受付を済ませてお待ち頂いている間、なにやら待合室が騒々しいのです。
「ほれ、お座り、お座りって言ってるでしょ、全くもう、お・す・わ・り!」
飼い主さんは愛犬に一生懸命お座りをさせようとしていますが、その願いもむなしく、当の本犬?は眼に入る光景が珍しいのか落ち着きなく、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、あげくには壁におしっこをシャー。一向にお座りをする気配がありません。
後で聞いた話ですが、このわんちゃんは飼い主さんから一度も「お座り」を教えて貰っていなかったのでした。
この飼い主さんは普段余り犬と接したことがなかったために、「犬は生まれながらにお座りやお手、おかわりが出来る」と思い込んでいたようです。
この秋に行われた動物フェスティバルでは、非常に芸達者なわんちゃんが沢山参加して下さいました。お座り、お手、おかわりは勿論、伏せ、待て、輪潜りやジャンプまで、見ていてとても素晴らしいものでしたが、それをマスターするまでには飼い主さんと愛犬の涙ぐましい努力があったことでしょう。
一つ一つの芸を根気強く教え込む飼い主さんと、それを覚える愛犬の間には、目に見えない固い絆があるように思えました。
これらの芸を出来ることが犬の価値を決めるわけではないと思いますが、犬と一緒に暮らす上で、このような楽しみ方もありなのかな?と思った秋の一日でした。
皆さんのお家のわんちゃんは、何か芸が出来ますか?
第二十三回
「先生、こんにちは。その節はお世話になりまして」
そう言ってお昼時に病院を訪ねてこられたのは、先日愛犬と永遠のお別れをした初老のご夫人でした。
「こんにちは、えーっと今日は?」と尋ねますと、くるりと外の駐車場の方を振り返り車を見ます。
「実はね、また新しい家族が出来たんですよ。それでご挨拶と思って」
「そうですか、それはそれは良かったですね。」
「えぇでも私たちもそう若くないから、今から子犬を飼って育てるとなると犬と人間とどちらが先に逝くか判らないでしょ?(笑)。だから成犬を保護施設から譲り受けてきたんです。施設の人はね、5〜6歳位じゃないか?って言うから、それなら私たちもあと10年位は頑張れるかな?って。」
「そうですか、素敵なご縁があったんですね。」
「そうなの、あの時はふっとこれからは犬の世話をしなくて済むかな?と思ったのよ。でもいないと何だか淋しくてね。あんなに淋しく感じるとは思わなかったわ。もう夫婦の会話もなくなるのよ(笑)。それで相談してやっぱり犬を飼おうって事になったのね。」
「そうですよね、前のワンちゃんはご家族の中ではとても大きい存在でしたよね。」
「そうなの、だからこれからまた色々お世話になりますね。」
そう言って病院を後にされました。
動物を飼うことはとても責任のある行為です。でもその代わりに私たちに沢山の幸せを与えてくれます。
このご夫婦もまた新しい愛犬を中心に色々楽しい時間を過ごされることでしょう。
第二十二回
動物が超高齢になってから大きな病気、それも手術をしなければならないような病気になった時、私たち獣医師はとても悩みます。手術をしなければほぼ助からない病気だ、でも手術の時が最期になってしまうかも知れない。そんなジレンマに駆られることが多々あります。
今回もそのような動物が運ばれてきました。検査結果を見たら生きているのが不思議な位の状態なのです。
体の全ての臓器が悪くなる「多臓器不全」の状態になっています。
ご家族と相談し、今後のことを考えます。
「最期は家で看取ります」がご家族の結論でした。
果たしてこれで良かったのか?自分の診断は間違っていなかったのか?他の先生にもご意見を聞きました。
「この年齢ですから、長生きしてもらうには手術をしなかったことは間違いじゃないと思います。私も同じ事をお話しすると思います。」そんな答えが大半でした。
数日後、その飼い主さんから電話があり、「犬が立ち上がろうとするんですけどどうしてやるのが良いですか?」
「あれから2日ほどは動かなくてダメかな?と思ったんですけど、昨日位から少し動くようになって立とうとするんです」
来院頂き再度検査をしたところ、少しずつですが状態が良くなってきています。
フードも食べられるようになっています。
時にですが動物の生命力は、教科書に書かれていることをいとも簡単に覆してしまうことがあります。
これだけ科学が発達した時代に奇跡なんてナンセンスなのかも知れませんが、今回ばかりは奇跡を感じてしまいました。
第二十一回
「先生、毛が抜けて皮膚が赤くなって痒がってるんですけど、これって皮膚病ですか?」
体をとても痒そうにしている動物を連れて飼い主さんが来院されます。
当たり前ですが、毛は皮膚から生えています。その皮膚の状態が悪くなると毛が抜け落ちてしまいます。毛が抜け落ちる原因は様々で、バイ菌の感染やホルモン異常、ストレスなど多種にわたります。
動物の皮膚は人間の皮膚に比べ、非常にデリケートに出来ています。皮膚の一番外側にある角質層の厚さは、人間の半分以下とも言われています。人間は面の皮が厚いのです(笑)。
セラミド、聞いたことがある言葉だと思いますが、角質層の細胞同士を結びつけている物質です。これが失われると皮膚の大事な働きであるバリヤ機能が失われ、皮膚表面から色々な有害物質が進入し、アトピーなどの皮膚炎の原因となったり、また逆に皮膚内の水分が簡単に蒸発してしまい、皮膚が乾燥し痒みを誘発してしまいます。冬に乾燥肌で皮膚が痒くなる経験をお持ちの方であれば、それは想像に難しくないと思います。
皆さんも毎日洗顔し化粧水などで肌を清潔にし潤いや張り艶を保っていると思いますが、動物の皮膚も同じです。
「濡れている」と「潤っている」は違います。皮膚を正常な状態に保つためには、皮膚や毛が濡れたらすぐに乾かす、汚れたら適正なシャンプーで綺麗にする、定期的にブラッシングを行うなどが良いかと思います。
髪の毛やお肌は女性だけじゃなく、動物にとっても大変大切なものなのです。そして男性にも・・・。
第二十回
涼しい7月が終わり、ちょっと暑い8月ですね。。
皆さんペットの熱中症対策は大丈夫でしょうか?
あるオーナーさんが「ケーキを買うと付いてくる保冷剤を、バンダナ等で包んで首に巻いてあげると気持ちよさそうにしてますよ。」と教えてくれました。
なるほど、リサイクルだし何度も使えてエコで良い話だなぁと思いましたが、これにはちょっと注意が必要です。
というのも、ごく一部の保冷剤には「エチレングリコール」という成分が使われてることがあります。自動車整備に詳しい方であれば「不凍液の成分」と言えば判るかも知れませんが、やや甘みがある液体です。
エチレングリコールは腎臓にもの凄い毒性を持っています。
この甘みは動物が好むらしく、外国では結構中毒事故が起きているようです。
腎不全症状が出てしまってからは治療がほとんど間に合いません。
保冷剤をお使いの歳には、念のため製造メーカーさんに一度確認されると良いでしょう。
身近にあって危険なものと言えば、アメリカでの報告で理由はまだハッキリ判っていませんが、ブドウも腎不全になる危険性があるそうです。勿論レーズンも然りです。
キシリトールガムも大量に食べてしまうと低血糖を起こす可能性があります。ボトル入りのガムは犬の口の届かないところに保管しましょう。
猫では人用の風邪薬が危険です。アセトアミノフェンが猫には中毒物質となりますので、猫が風邪を引いたからと言って人用の薬を飲ませることは決してなさらないで下さいね。
第十九回
先日、知人の眼鏡店で眼鏡を作った際、近くのものが見えにくくなってきたことを話すと、「すこし老眼来てるね」と言われました。
老眼と言う響き、ちょっとショックでした(笑)。せめて「ミドルアイ」というのはどうでしょう?
さて実はこの老眼、動物にもあるのです。
10歳位のワンちゃんで何となく眼が白く濁って見えることがあり、飼い主さんは「もしかして白内障?」と心配して病院に来られる方がいらっしゃいます。
眼を診察させて頂きますと、目が白っぽく見えるのは水晶体が濁る白内障が原因ではなく、水晶体の弾力性が無くなって白く見える「核硬化症」いわゆる「老眼」の事が多いのです。
核硬化症は視力には問題ないと言われており、今のところ積極的な治療は必要なく、また動物は生活にそれほど不自由を感じていないそうです。
生活に不自由を感じていないと言われるのは、動物は嗅覚が人間の1億倍と言われていることも理由なんでしょうね。ただし今後白内障になっていく可能性があるので定期的な観察は必要です。
目が白く見えるもう一つの病気の白内障ですが、今は他の合併症などがなければ、人間と同じような白内障の手術も可能となっております。ただこの手術はどこの動物病院でも受けることが出来るという訳ではなく、手術用の顕微鏡を使い、専用の手術器具を駆使し数ミリの世界の手術を行いますので、眼科を専門とした動物病院を受診しなければなりませんが、獣医療の世界もここまで発達しているのです。皆さんの飼っているペット、綺麗な眼をしていますか?
第十八回
チップちゃんは10歳でした。ある日、突然食べ物を吐き出すようになり、検査の結果「重症筋無力症」という病気に罹ってしまったことが判りました。この病気は重症なら全身の筋肉が動かなくなり、立てなくなったり呼吸困難で死んでしまうことが多いのですが、軽症だと食道など体の一部分だけが冒されるだけの事もあります。それでも食べたものが肺に入ってしまい「誤嚥性肺炎」で死亡してしまう動物も少なくありません。幸いチップちゃんは食道だけが冒される状態だったのですが、それでも毎日の食事は頭を高くして立った姿勢じゃなければ喉を通って胃袋まで進まないのです。当然つばも飲み込むことが出来ません。喉に溜まったつばを吐き出しては家の中を汚してしまう毎日でした。それでも飼い主さんは薬を飲ませつつ汚れた床の掃除をする看病生活を2年以上続けて下さいました。そしてある日のこと、「最近はあまりヨダレも吐かなくなってきたんです。もしかしたら治ってきたのかしら?」と。それは病院で定期的に体重測定していることからも判りました。元の半分程にまでやせ細った体型が、少しずつですが体重が増え、それに伴い毛づやも良くなってきたのです。
薬を少しずつ減らして経過を見ていきましたが、そしてとうとう薬を中止することが出来るまでにチップちゃんは復活しました。
「軽症であれば良くなることがある」と教科書には書かれている病気ですが、良くなるまでの2年間の飼い主さんのご苦労を考えると、本当に頭が下がる思いです。今回は飼い主さんの献身的愛情が愛犬の病気を克服したと言って良いでしょう。
第十七回
いつもの様に耳の治療に来院された年老いたゴールデンレトリーバーの飼い主さんが、診察台に付いている体重計を見て一言「あら、体重が1kg減ってるわ」。やや肥満傾向にあったので、体重が落ちたことは大した問題じゃないかな?と思ったのですが、飼い主さんはその微妙な変化を見逃しませんでした。治療をしながらお話を聞くと、ここ一週間くらい何となく食欲が落ちていたそうです。念のため検査をしてみたところ、お腹の中にシコリが発見されました。
ある日本犬の飼い主さんは、何となくここ数日のおしっこの量と回数が増えたことを疑問に思われ、病院におしっこを持ってやってきました。尿検査を行ってみると、腎臓の働きが悪くなってる可能性が見つかりました。
動物は具合が悪くても、なかなかそれを表情に出してくれません。残念ですが周りが気がついたときには手遅れだった等と言うこともしばしばです。
「何となく変」、飼い主さんが飼っているペットを見てそう思ったとき、それはペットが発している危険信号なのかも知れません。
人間の病気と同じく、早期に発見出来れば、早期治療につながる病気も多いのです。
これからの季節、各種予防注射や血液検査等のために動物病院に行かれる機会が増えると思いますので、その際にかかりつけの先生に色々ご相談されると良いかも知れませんね。
検査をして何も無ければそれで良し、正常を知れば異常に気づくのも早くなります。
皆さんの飼われてるペット、本当に「健康」ですか?
第十六回
「先生、12才の雌猫ちゃんが来てるんですが、お腹が膨らんできたそうです」と、受付を担当していた動物看護師さんが伝えてくれました。老猫でお腹が膨らんできたとなれば、病気としては腹膜炎、肝臓病、ガンなどが考えられます。どれも治療が大変な病気ばかりです。早速診察室に入って頂き、飼い主さんとお話をします。「食欲はありますか?」「はい、よく食べますし、元気です」一般的に病気の場合、多くは食欲や元気がなくなるわけですが、この猫ちゃんは食欲もありますし元気具合も問題ないようです。一瞬頭が混乱しましたが、何はともあれ診察を行います。お腹を触ってみますと、私の指先になにやら感触が。エコー検査をさせて頂くと、なんとこの猫ちゃんは妊娠していました。エコーの画面には胎仔の心臓の鼓動がしっかりと確認出来ました。「あら〜、ごめんなさい、妊娠してますわ」。病気だと勝手に決めつけていた私は、自分の思い込み誤診に飼い主さんに思わず謝ってしまいました。いきなり謝られた飼い主さんもなんの事やら訳が判らなかったでしょう。その後一通りの妊娠出産のお話をさせて頂きました。世界記録を集めているギネスブックでは、イギリスの猫が30才で出産したという記録がありますが、今回の12才の妊娠も、私の中では最高記録です。また仕事をする上で、病気に対してある程度の予想はしても、あまり強い先入観を持ってはいけないという教訓にも為りました。この猫ちゃんはその後無事に子猫を出産いたしました。事実は小説よりも奇なりです。
第十五回
猫のタマちゃんは数年前からホルモンの病気を患い、飼い主さんはそのために毎日治療を続けていました。飼い主さんの懸命な治療のお陰で、タマちゃんの病気は大事に至ることなく小康状態を保つ事が出来ていました。そんなある日、飼い主さんがタマちゃんを連れてやってきました。「なんだか息苦しそうなんです」。診察をしてみると今度は重い心臓病になっている事が判りました。胸に溜まった水を抜く処置を行い、酸素室に入れて経過を見ます。ただこの心臓病は現時点では完治する病気では無いようです。今我々が行っている治療は延命措置に他なりません。飼い主さんにもそのことをお話しし、ご納得頂いて治療を続けました。そんな事が1ヶ月も続いたでしょうか。飼い主さんが重たい口調で話を切り出されました。「この子には今まで出来る限りの事をしてきたつもりですし、私たちもこの子から沢山のものを頂きました。もしこの子がこの先このまま苦しい状況が続くのなら・・・」。飼い主さんは断腸の思いで苦渋の選択をなされたようです。色々なお話をし、飼い主さんの決心の固さを確認した我々は、タマちゃんとお別れする処置を行いました。処置の間中、飼い主さんは「今までありがとうね」と何度も言いながらずっとタマちゃんの頭を撫でていましたが、そのお顔に涙はありませんでした。「実は昨日のうちに思いっきり泣きました。でもこのような決断をした飼い主の責任として、最期は笑顔で送り出してあげたくて、今日は泣くのを我慢しました」と。病院スタッフの涙が流れる中、診察室には静かな時間が過ぎていました。
第十四回
日本犬のユキちゃんは、今年17才になります。おじいさんを亡くしてからは、おばあさんと仲良く二人暮らしをしています。時々ご家族の方が様子を見に訪ねていらっしゃるようですが、普段はにユキちゃんとおばあさんとの二人三脚の生活です。ユキちゃんもそこそこのお年で心臓などに持病を抱えていて、病院からも薬を出しています。もちろんユキちゃんは自分で薬を飲む事は出来ませんから、おばあちゃんが毎日ユキちゃんに一生懸命薬を飲ませてくれています。年齢のせいで足腰が弱り、目も白内障になり、耳も遠くなったユキちゃんですが、病院に来るときにはいつも元気に待合室に入ってきます。定期健診の診察をさせて頂き、いつもと変わらない様子なので心臓の薬や皮膚の薬をお出しします。おばあさんもそれらの薬を一つ一つ確認し、ユキちゃんに「ユキ、ちゃんとお薬飲まないとダメなんだよ。あ、私もだわ」と笑いながら診察室を後にします。そして「先生、私もいい年だけど、この子がいるからこうやって元気にいられるんだよね。やっぱりこの子に頼られてるかと思うと、張り合いが出来て、毎日生きていても楽しいよ。まぁ私もこの子を頼ってるんだけどね」とユキちゃんの頭をなでながら私に笑いながら話してくれます。ヒューマンアニマルボンドと言う言葉を最近よく耳にしますが、このようなすてきな動物と人間との関係を見ていると、この仕事をしていて本当に良かったなと思います。
第十三回
車で1時間強も走れば着く距離なのに、仕事にかまけてあまり実家に行かない親不孝な自分ではありますが、それでも年に数回は実家を訪ねてみたりします。すると居間のテーブルの上にはかかりつけ医から出された薬が山になっています。ちらりと薬袋の中を覗くとどれも関節の薬のようです。「これが痛み止めで、これが軟骨の薬で、これがビタミン剤で・・・」と説明する母。私も冗談混じりに「あらら、納屋の馬に飲ませる位の量だね。そんなに飲んだらお腹一杯になっちゃうんじゃないの?」なんて笑ってみたりします。「そうだね、時々どれを飲んだか判らなくなっちゃうわ。年は取りたくないね」と母。そして最後に「お医者さんがね、足が痛いのは痩せなきゃ治らないよって言うんだよね。いっそのこと「やせ薬」でも出してくれれば良いのに」と笑いながら話していました。動物も同様で関節の治療のための薬がいろいろなメーカーから出ています。我々獣医師は、動物の症状に合わせて幾つかの薬をご処方しているのですが、年を取ってから関節疾患で悩んでいる動物の多くは、遺伝的に関節疾患になりやすい種類の動物か、もしくはやや体重オーバーな動物です。若いうちは筋肉もしっかりしていますから、ある程度の体重過多も筋肉が関節を守ってくれますが、老化と共に筋肉も衰えて、体の重みが直接手首や肘、膝、股関節などの関節に掛かるようです。病気は治療よりも予防が大事です。関節炎の予防には、計画的な繁殖、若いうちからの適度な運動、適正体重の維持が必要のようです。
第十二回
詰め込み教育だけでは世の中を渡れなくなった現在ですが、小中学校などの教育現場でも「社会実践教育」の様な事が行われてるようです。先日、時期を同じくして近所の学校の小学2年生と中学2年生の生徒さん数名が、校外学習の一環で当院に見学に見えられました。小学2年生の生徒さん達は見るもの触るもの全てが面白いらしく、病院内を所狭しと見学しては、大きな歓声を上げておりました。なぜかピンセットを見ては興奮し、注射器を見ては怖々とし、入院している動物を見て「かわいそう」と素直な感想を述べたりと、まさに興味津々って感じを前面に出しての見学となっていました。変わって中学生さん達ですが、さすがに小学生の皆さんのようなはしゃぎっぷりは無く、ある程度将来を見据えたものの見方や質問などをしてくれてました。「なぜこの仕事をしようと思ったのですか?」「獣医になるにはどこの大学に行けば良いんですか?」「どのような勉強をすれば獣医さんになれますか?」「やりがいを感じるときはどんなときですか?」など、受験とか将来を意識した質問が多かったですね。中学生の頃は将来のことなどほとんど考えず、ただいたずらに毎日を過ごし、進路を考えたのが高校を卒業する間近の自分からすれば、今からある程度将来を考えてる中学生はエライなぁなんてちょっと思ったりもしたわけです。この先我々獣医師の仕事がどのような感じになるかは判りませんが、今回見学に来てくれたような生徒さんがこの業界へ進んでくれれば、こと動物の健康管理に関してはしばらく安泰だなと思った晩秋の二日間でした。
第十一回
ある日、「先生、実はね・・・」と飼い主さんがちょっと本題を言い出すのを躊躇ってる風な口調で話し始めました。「うちの猫が酷い皮膚炎なんですよ」「どんな皮膚炎なんですか?」「毛が固まって毛玉になっちゃって、そこの皮膚が赤くなってるんですよ」。ピーンと来ました。「長毛の猫ちゃんですか?」「そうなんですよ、ブラシを掛けてやろうと思うんですけど、嫌がって出来なくて、それで様子を見てたらどんどん酷くなって」」。後日飼い主さんは猫ちゃんを連れて来院されました。ケージから出してみると、予想通りというか、ウールのセーターを洗濯機で普通に洗ってしまった時の様な、全身の毛が固まって団子状態になっています。そして毛玉で引っ張られている部分の皮膚は、地肌が赤くなっています。「これは麻酔を掛けて毛玉を刈ってしまうしかないですね」一通りの検査を行い、猫ちゃんに麻酔を掛けて、スタッフ総勢で猫ちゃんの毛玉を刈り取ります。30分ほどでライオン状態になった猫ちゃんは、薬用シャンプーで全身を洗われ、キレイさっぱりな状態になりました。「毛が無くなって暫くは寒い感じがすると思いますので、風邪を引かさないように部屋の温度に気をつけて下さいね」そう言ってお帰り頂きました。長毛の猫の場合、ブラッシングをしないと全身に毛玉が出来てしまい、皮膚炎を引き起こすことがしばしばあります。どうしてもブラッシングが出来ない猫ちゃんの場合、お一人で悩まずに動物病院にご相談してみて下さい。何か良い解決策が見つかるかもしれません。動物病院は病気の治療以外にもこのようなこともしています。
第十回
9月20日から26日は「動物愛護週間」です。全国各地で動物愛護に関する様々なイベントが行われます。札幌市も市や獣医師会が主体となり、近隣市町村の動物関連企業や団体が協力して、9月23日(敬老の日)にさっぽろばんけいスキー場におきまして「動物愛護フェスティバル2008」を開催いたします(雨天決行)。フェスティバルも数えれば今年で5回目を数え、市民の皆様に認知していただき、年々盛況な催し物となっています。長寿動物の表彰があったり、都会では普段なかなかお目にかかれない牛や馬などの大動物や、警察犬訓練デモンストレーション、ちょっと珍しいエキゾチックアニマルなどを間近で見られたりします。他にも動物飼育相談なども行っています。会場周囲を見渡せば広々とした特設ドッグランで犬たちが遊んだりと、大人から子供、そして一緒に来た動物までもが楽しめる「人間と動物共に参画型イベント」です。お時間がありましたら、是非秋の一日を動物と一緒に楽しく過ごしてみませんか?。今回はちょっと宣伝っぽくなっちゃいましたね(えへっ)。
ちなみに動物愛護週間は「動物を愛し、動物と人間の絆を深めることを目的として定められた記念週間で、アメリカ動物愛護協会が1915年に制定したのが始まりだそうです。もう90年以上前からあるものだったんですね。ただ一つ思うのは、動物愛護週間だから動物との絆を深めるのではなく、常日頃から動物との信頼関係を持っていたいものです。人間と動物、いつも信じ合えるかけがえのない仲間でいたいですね。その関係をうまくサポートできるよう、我々獣医師はこれからも皆様のお力になれるよう頑張っていきたいと思います。
第九回
「先生、この犬は大人になったらどの位の大きさになりますか?」とか「この犬の理想体重は何kgですか?」、子犬を連れてきた飼い主さんに尋ねられることが良くあります。初めて動物を飼う方にとっては不安と期待で一杯と想像します。ですがちょっと待って下さい、逆にお尋ねしますが「大人の身長は何cmですか?」「人間の理想体重って何kgですか?」。身長は遺伝に左右されるでしょうし、体重も身長によって全然違いますよね。150cmの人もいれば190cmの人もいますし、体重だって40kgが理想の人もいるでしょうし、80kgが理想の人もいるでしょう。それと同じで、動物も体格も違えば理想体重も違うんです。なので一概に「この犬はこの位になります」とか「この犬の理想体重は何kgですよ」と言えないんですね。でもそれでは何となく納得できないと思いますので、あくまで一般論ですが一つの基準を書きます。動物を上から見てお腹部分が少しくびれていて、胸の部分のあばら骨の部分を触って少し脂肪が付いている感じが理想です。例えが古いですが、昔のコーラの瓶のような感じです。首からお尻までペットボトルのように一直線だったり、あばら骨の部分を触ってゴツゴツしていたら、それは太りすぎや痩せすぎの可能性があります。
メタボリックシンドローム、最近よく耳にする言葉ですね。動物の世界ではまだメタボリックシンドロームのきちんとした基準はありませんが、犬では病院で体脂肪を測定することも出来るようになりました。動物も人間と同様に肥満による病気の危険性が高まりますので、常日頃から美しいプロポーションをキープして頂きたいものです。
第八回
病院の診療時間が終わってからや、かかりつけ医が休診日になると決まって具合が悪くなる。人も動物も良く聞く話です。その話の真相は定かではありませんが、この前もそのようなワンちゃんがいました。夕食後ににわかに苦しみだして、でも時間は一般の動物病院の診療時間が終わった夜中。普段からワンちゃんの様子を注意深く観察していた飼い主さんは「これはただごとではない」とすぐに感じて、夜間診療施設に愛犬を連れて行きました。レントゲン撮影やいろいろな検査の結果、「急性胃拡張症」であることが判明しました。この病気は特に大型犬が罹りやすく、原因は良く判っていませんが「食後」に多く発生するようです。急激に胃袋が膨らんでいき、時には胃袋がお腹の中でくるりと回って(捻転)内臓や大動脈を圧迫してしまい、一晩放置すれば死んでしまうことも多い大変危険な病気です。治療法は、全身麻酔をかけて胃袋のガスを抜いたり、胃袋が捻転していてる場合は手術で内臓の位置を元に戻したりします。今回は高齢のワンちゃんでしたので麻酔の危険性もありましたが、飼い主さんのとっさの判断と夜間施設の獣医師の迅速かつ的確な処置により、そのワンちゃんは無事一命を取り留める事が出来ました。このように大型犬の「急性胃拡張・捻転症候群」の治療は時間との勝負的な部分がありますので、食後にかかわらず愛犬のお腹が急に張ってきて苦しそうにしているときは、あまり時間を置かずに病院で検査を受けた方が良いでしょう。全ての病気に言えることですが、飼い主さんが動物の状態の変化にいかに早く気づくかが、治療への早道です。
第七回
「先生、この耳、輪ゴムで縛っちゃったら少しは風通し良くなるかしら?」
外耳炎を繰り返す垂れ耳のワンちゃんを飼われてる飼い主さんから、時々冗談交じりに言われる言葉です。
「そうですね、でもすぐに嫌がってゴムを外してしまいますよ」なんてやりとりをするわけですが、実はこの輪ゴムは時に非常に怖い事態を引き起こすことがあるのです。
実際に耳を輪ゴムを使って頭の上で縛った飼い主さんがいました。これで耳の蒸れが原因の外耳炎からも解放されると思っていたようですが、なんと、こともあろうか数週間後に耳に輪ゴムが食い込んで、耳がスパッと切れてしまいました。
手術によって傷口はキレイになりましたが、かわいそうに耳はもとの半分の長さに。幸いにも毛が伸びてほとんど目立たなくはなりましたが、飼い主さんは後悔しきりでした。
何かの拍子に手首に輪ゴムが巻き付いてしまい、指先がドラえもんの手のように腫れ上がったワンちゃんもいました。最初は手首が腫れた理由がわからずこちらも大変でしたが、注意深い検査で手首に輪ゴムの一部を発見、食い込んだ輪ゴムを取り外して事なきを得ました。
他には、輪ゴムが頭の部分に巻かれたワンちゃんも。首の部分が輪ゴムで切られていました。
輪ゴムのキズはほとんど血も出ずにじわじわと皮膚に食い込んでいくため、飼い主さんの発見がどうしても遅れがちになります。
動物は時として人間が思いもよらないことをしてしまいます。「まさか」はすぐそこにあるのです。
動物の手や口の届くところには、輪ゴムやヒモなどは置かないようにご注意ください。
第六回
年の瀬頃には「今年も雪が少なくて除雪が楽で良いね」なんて話していたら、年明けからその遅れを取り戻すかのように雪が降りだし、2月には交通機関が麻痺するほどの大雪に見舞われ大学入学試験の延期なども起きるほど。気がつけば私の住んでいる地域は市の除雪予算を大幅に超えるだけの積雪量となりました。降り続ける雪を見てますと、人間は自然に対して如何に無力なのかを思い知らされます。それでも3月の声を聞く頃には気温も上がり、どうなることかと思っていた雪も溶け始め、主要幹線道路にはほとんど雪が無くなり、歩道も歩きやすくなってきて、一歩ずつですが北の大地にも春が近づいているのを感じ取れるようになってきました。春になると草木とともに顔を出してくるのが、犬の排泄物です。冬の間は雪に埋もれて隠れていた例のモノが、小さなモノから大きなモノまで、各種取りそろえて道端の雪解けとともに地面から顔を出し始めます。自治体によっては色々と対策を検討し、飼い主さんへの犬の排泄物の後始末を啓発するプレートなどを配布してくれたりしていますが、それでもまだ春の有り難くない風物詩として見受けられるのは、私たちにとっても大変寂しい話です。道路に落ちている排泄物は、見た目ももちろんそうですが、場合によっては各種病気の感染経路にもなりえます。病気を持っているワンちゃんの排泄物を、別のワンちゃんがペロリと舐めてしまって病気が感染してしまうことは、実はよくあることなのです。道路は犬の排泄施設ではなく公共の場ですから、愛犬家だけではなく、当然犬が苦手な方もいらっしゃいます。散歩の時には、愛犬家のマナーとしてウンチ袋を忘れずに携帯していただけたらと思います。「自分だけ、一度だけ」という気持ちを持たずに、デカケルトキハワスレズニ。
第五回
私が大学を卒業した20年前と今では、獣医療の進歩は隔世の感があります。当時はCTもMRIも癌治療の放射線装置も大学にはありませんでしたし、超音波診断装置による検査もまだ研究段階でした。でも今ではそれらが普通に行われる時代になっています。獣医療も日進月歩です。
それらの情報を吸収するために今は色々な獣医学セミナーが、それこそ毎月のように行われています。人間の医療と同様、獣医療も「この前まで最良と思われていた方法が、最近になってよりベストな方法が見つかりました」なんて事が良くあるのです。また「この病気にはこの薬が効きました」や「この方式の手術で無事成功しました」などの情報発表(症例報告と言います)などもあります。他にも「この診断装置の使用方法は」等の勉強会もあります。パソコンのアップデートがちょくちょく行われるように、獣医学のアップデートもちょくちょく行われるのです。専門書を読むだけではなく、実際に話を聞いたり機材を触ったりすることで、私たちはより多くの知識を得ています。
一般のセミナー等は、普段の診療が終わってからの夜8時頃から深夜に渡って行われる事が多いのですが、数百名が集まる大きな学会となりますと、ホテル等を借り切り、週末や三連休などを目一杯使って行われることもあります。中にはわざわざ本州まで出掛けて講演を聴きに行く先生もいます。そうなりますと必然的に病院を休診にしなくてはならない施設も出てきます。どの先生も事前に病院内やHP等で休診や診療時間変更の案内を出しているのですが、それで時々飼い主さんに「病院に行ったら学会で臨時休診だった」などご迷惑をおかけしているのも事実です。ですが「先生もより良い診療を行うために頑張ってるんだぁ」と思って頂けたらと思う次第です。
第四回
獣医師の多くが自宅で犬や猫、ウサギやハムスターなど、色々な動物を飼っているようです。今我が家には18歳のメス猫を筆頭に10歳のオス猫、そして2歳のメス猫がいます。以前はマルチーズやポメラニアンも飼っていましたが、今は猫ばかりになってしまいました。18歳の猫は目も見えなくなってきており、食事以外はほとんど寝ている状態です。毛は艶も無くボサボサ、体重も全盛期の約半分になってしまいました。時々トイレ以外の所で排泄してしまったり、絨毯の上でおねしょをしてしまったり、腹筋の低下で上手く力むことが出来ずに排便困難になったり、力みすぎて食べたものを吐いてしまったりと、家族の介護を必要とする状態になってきています。10歳のオス猫は口内炎の痛みを取る一手段として歯を全部抜いてしまいました。お陰で今では硬いキャットフードも丸呑みですがパクパク食べている生活を送っています。長毛種なので夏前には全身バリカンによるライオンカット状態で、最近の夏の猛暑も何のそのです。2歳のメス猫はさすがに若さ一杯で、家の中を所狭しと走り回っています。黒猫なので、毛に太陽の光が当たるとそこには「天使の輪」が見える有様です。時々オス猫ととっくみあいのじゃれ合いっこをしていますが、歯のない中年(初老?)オス猫相手ですから、そこそこ互角の勝負。また家族のことが大好きで、家族の外出時には玄関前で帰りを待ってる事もしばしばです。動物を飼っていますと、獣医専門書には書かれていない色々な事を実際に知ることが出来ます。飼い主さんとも獣医師としてではなく「一飼い主」の立場としてもお話が出来ます。獣医師も家に帰れば一般の飼い主さんと同じように動物に接していますから、時には掛かり付けの先生にその辺のお話も聞いてみると楽しいかも知れませんね。
第三回
15歳になる小柄なヨーキーさんが飼い主さんに抱かれて来院されました。
「つい先ほどなんですが、この子がクシャミをしたときに口から何かが飛び出したと思ったら、それから口が半開きになって閉じないんです」
少々血が出ている口の中からは悪臭が放たれ、下アゴを触るとグラグラと揺れました。
「レントゲンを撮ってみないとハッキリした事は言えませんが、恐らく歯周病が歯の根まで進み、それがアゴの骨を溶かしてしまった為にアゴが折れてしまったんでしょう。他の歯も歯周病が進行していますから、早めに歯石を取ったり、グラグラしている歯は抜いてしまった方が良いでしょうね。」
「え?歯を抜いたら食事が出来なくなるんじゃないですか?」良く訊かれる質問です。
「そうですね、でも触ると痛い歯がある状態と、歯が無くても痛くない状態ではどちらが楽だと思いますか?それにワンちゃんは人や牛のように口の中で食べ物をモグモグ噛むことはほとんどしないんですよ。中には食べ物をほとんど丸呑みしちゃう子もいるくらいなんですから」。こうお伝えすると飼い主さんはなるほどと肯いてくださいました。
老齢の小型犬では、歯の病気を抱えている子が多く見られます。下の歯の場合はこのようにアゴの骨折が、上の歯の場合は鼻血、クシャミ、化膿した歯の根の炎症のために、目の下が腫れることがあります。また口の中の雑菌が血液と一緒に心臓に流れていき、心臓弁膜症を引き起こす原因にもなりえます。
これらの予防は第一に「歯を綺麗に保つ」事です。一番効果的なのは毎日の歯磨きですが、それ以外にも色々な歯科予防グッズがありますので、かかりつけの先生にご相談してみてください。それから「歯のために」と余り堅い物は与えないでくださいね。強いアゴの力で思いっきり噛んで、結果歯がポッキリ折れちゃうことがありますのでご注意下さい。
第二回
一日の診察が終わって、私は「やれやれ今日も終わったぞ」とイスに腰掛けて休み、職員さんが帰り支度をしているその時、事件は起きました。
病院の玄関が開き、薄暗い待合室に人が飛び込んできます。「先生、まだ良いですか?。家に戻ったら犬がグッタリしてたんです」。大あわての飼い主さんの腕の中にいるワンちゃんは明らかに急患状態です。
「どうしたんですか?」。「私が家に帰って見たら犬が糸をくわえてて、その糸が体中にグルグル巻きになってたんです」。その犬の口からは糸が30cmほど出ていました。試しに軽く引っ張ってみましたが、口から抜け出てくる気配がありません。「どうやら糸を飲み込んでしまったようですね。これはかなり(腸の)奥まで行っている可能性がありますよ」とお話しをし、レントゲンやエコー検査で検査の結果、緊急手術となりました。果たして糸は盲腸の直ぐ近くまで達していましたが、それでも飼い主さんの発見が早かったお陰で腸にそれほど損傷は受けていませんでした。手術で腸の数カ所を切り、慎重に糸を取り出します。もの凄く長い糸がお腹から取り出されました。
犬や猫は時にヒモのような物を飲み込んでしまうことがあります。そしてそれはボールのような固まりを飲んだ時よりも重傷になる場合が多いのです。人間を含め動物の体は胃の中に物が入ると、蠕動(ぜんどう)運動という動きでそれを腸の方に送り出そうとしますが、ヒモや糸ような長い物の場合、腸の中を糸が裁縫の「ゴム通し」のような感じで進み、腸が巾着袋の口のように縮まってしまいます。これを放置すると縮まった腸には血が通わなくなり、最後には腸が切れたり穴が開いてしまうこともあるのです。
動物は時に人間が思いも寄らない物をおもちゃにします。味の付いた骨を飲み込むのならまだしも、まさか犬(猫も)が糸を飲み込むなんて普通は思わないですよね。
私たちの身の回りには、動物にとって危険な物が沢山あります。常日頃からご注意をお願いします。
第一回
幼少時代を過ごした1960年代、「三丁目の夕日」の舞台からは10年ほど後ですが、田舎の農家の息子だった私の回りには、常に色々な動物がいました。犬、猫は言うに及ばず、鶏、農耕用の馬、養豚業や酪農業を営む親戚から頂いた豚や牛までもが離れの納屋に暮らしていました。
ある日、馬の診察に見えられた獣医さんに家族が「先生、この馬種付けしたんだけど、子っこ入ってるべか?」と尋ねると、その獣医さんは笑いながら「飼い主が判らないもの、なして他人のオレが判るのさ(笑)」。のどかな昭和40年代の話です。
その獣医さんは笑いながらも、体温を測ったり馬のお腹に聴診器を当てたりして「うん、いるな。大丈夫だ」。数ヶ月後、無事その馬はかわいい子馬を生みました。その時「獣医さんって凄いもんだなぁ」と心の中で感心していました。今の時代は色々な検査機械があり、妊娠診断も高度な方法で確実に出来るようになりましたが、やはり診察の基本は「動物を触ってみる」事です。
私と獣医さんと関わりはそのような感じで始まりましたが、そのころはまだ自分が獣医師になるなんて思ってもみなかったのです。
時は流れ私が高校生の時、家には相変わらず色々な動物がいました。そんな中、飼っていた愛犬ゴンが突然食事をしなくなり、隣町の動物病院に連れて行って診てもらった結果、診断は「伝染性肝炎」。眼が青白く濁ってしまいもはや治る見込みがないと告げられました。これはワクチン接種さえしていれば罹らなかったかも知れない病気です。今の時代と違ってインターネットもない時代では、高校生の私が動物の治療の情報を得るすべはほとんどありませんでした。残念ながら間もなくゴンは短い生涯を終えたのです。私はその時思いました「獣医さんになろう」と。そしてその夢は叶い今こうして獣医師になり、日々動物の診療に当たっています。
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