第五十一回
忠犬ハチ公と言えば、急逝した東大教授の飼い主の帰りを毎日渋谷駅で10年も待ち続けた秋田犬です。
その逸話は映画になりましたし、アメリカでもリチャードギア主演でリメイク版が出来るほど、世界的にも日本で最も有名な犬の一頭ですね。
東京の渋谷駅に銅像があり、私がセミナーで東京に行った時も、ハチ公前には待ち合わせの日本人は勿論、多数の外国人観光客が銅像をバックに記念写真を撮っている姿が印象的でした。
そんなハチ公ですが、当時既に有名犬になっていましたから、1935年(昭和10年)3月8日に満11才で亡くなって直ぐに東京大学で死因究明の解剖が行われました。
結果心臓と肺動脈には多数のフィラリアの成虫が確認され、肝臓もフィラリアが原因と思われる重度の線維化が確認されており、その死因は「慢性イヌ糸状虫症」と診断されました。
その当時はフィラリアの予防薬など無かったんでしょうね。と言うよりも犬や猫などの小動物を診療する施設などは、それほど多く無かったのでしょう。
そして最近、当時解剖してホルマリン漬けになって残されていたハチ公の臓器が東大でMRIと顕微鏡組織検査された結果、フィラリア症の他に肺と心臓に悪性の腫瘍が見つかりました。
当時は顕微鏡検査も一般的では無かったらしく、体を解剖した結果からだけの死因判定でしたが、何時か獣医学が発達し正確な死因が判る日を待ち続け、今になって漸くその結論が出ました。
ハチ公も草葉の陰から「私の死因がやっと判ったのかい。動物にとって良い時代になったものだねぇ」と呟いているかもしれませんね。
第五十回
猫を飼っている女性と、そのお母さんと思われる方が来院されました。
飼い主さんに「今日はどうされましたか?」とお尋ねすると、
「私、猫を飼ってても大丈夫でしょうか?」と予想しない発言が飛び出しました。
お母さんが続けて「娘が妊娠しまして、それで妊婦が猫を飼っていたら猫から病気がうつるって聞いたものですから、心配になってきてみたんです」
どうやらトキソプラズマ症のことをご心配になっているご様子でした。
「飼い主さんは病院でトキソプラズマ検査はお受けになりましたか?」
「はい、受けました。抗体陽性と言われました。」
「ではほぼ大丈夫ですね、猫をこのまま飼い続けても大丈夫ですよ。猫から病気がうつることはまずありませんから余り強く心配なさらなくて結構です。今まで通り普通に暮らして下さいね。でもどうしても心配だと思うのでしたら、猫ちゃんが排泄した後は直ぐに片付けて下さいね。何日もトイレにウンチがある状態は宜しくないです。注意する点はその位ですよ。」
「それで良いんですか?」
「えぇ、それにトキソプラズマは生肉とかガーデニングの土からも感染することがある様ですから、猫だけが悪者じゃないんですよ。と言うか猫からよりも他のことでの感染の方が多いようですよ。」
そうお伝えすると女性とそのお母さんは安心してお帰りになりました。
妊娠、猫、トキソプラズマ、病気と言った短絡的な情報で左右されること無く、きちんとした知識を持って生活して頂ければ、多くの心配は未然に防げますので、不安な時はお一人で悩まずにかかりつけ医にご相談下さい。
第四十九回
「もー、また刺されてた。今年はこれで20カ所位刺されてるよ」
家族が朝起きてくるなり、腕や足を蚊に刺されたと文句を言っています。
今年の夏はちょっと遅めから気温が高くなりましたが、9月になってもまだまだ残暑が続いていましたね。家族は犬の散歩の際には入念に虫除けスプレーを掛けて出掛けているようですが、それでもちょこちょこと刺されてしまってるようです。蚊に刺されると言えば、そうです「フィラリア症」です。犬を飼われてる方ならもうとっくにご存じの病気ですね。人間が虫除けの予防をしているにも関わらず一シーズンに20カ所も刺されている訳ですから、その様な対策をしていない犬はもっと刺されている可能性があります。そうなればフィラリア症に感染する危険性もグンと高くなります。今は色々な種類の予防薬や注射剤がありますから、きちんと予防していれば怖い病気から愛犬を守ることが出来ます。フィラリア予防の内服薬は、服用してから1ヶ月効果が続くわけでは無く、服用したその日に動物の体内に入ったフィラリア幼虫を殺すものですので、服用したその数日後に蚊に刺されている様な場合は、またその翌月に予防薬を服用しなければなりません。つまり「蚊がいなくなった翌月位まで服用しなければならない」薬なのです。一般の予防とはちょっと意味合いが違って少々戸惑うかも知れませんが、もし何か疑問な点がありましたら遠慮無く薬を処方して頂いた先生にお尋ね下さい。ちなみにフィラリア症は犬だけの病気では無く、近年では猫にも感染が確認されています。
第四十八回
学生時代、午後の講義に出席する為に大学の学生食堂から急いで教室に向かう時でした。もうすぐ授業が始まるというのに、一緒に食事をしていた友人はノンビリとお茶を飲みながら椅子に座って休んでいます。
「講義に遅刻するよ」と言うと「良いの良いの、親が死んでも食休みって言うでしょ」、そう言って友人は席を立とうとしません。
面白いことを言うヤツだなと思ってその時は終わったのですが、獣医師の世界に入ってその時の言葉の意味がわかる様になりました。
そうです、動物も食後直ぐに激しい運動などをすることは宜しくないのです。
胸の深い大型犬で時々遭遇する病気に、胃拡張捻転症候群があります。
病気の発生機序はまだハッキリしたことは判ってないのですが、食後の急激な運動も病気を引き起こす一因と考えられているのです。
胃の中に大量にエサが入っている状況で運動すると、胃の中にガスが大量に溜まったり、エサと水の重みで胃が食道と十二指腸を軸にぐるりと回転してしまい、それに伴い胃の横にある脾臓や大きな血管も一緒に捻れて循環不全を起こし、時に急死してしまう恐れがあります。
散歩から戻ってきて直ぐにエサを与えたり、その逆にエサを食べて直ぐに散歩に出掛けたりすることは、動物の体にとっては余り良くない行為なのです。
親が死んでも、と言うのはちょっと大げさな言い回しかも知れませんが、こと大型犬に関しては、散歩に出掛けるのは食後1~2時間位経過してから、また散歩から戻ってきてからエサを与えるのは、愛犬の呼吸が落ち着いてからが良さそうです。
第四十七回
悪性腫瘍(ガン)、脳卒中、心臓病。これらは言わずとしれた人間の三大死亡原因ですね。先日もプロスポーツ選手が突然の心臓病でお亡くなりになりました。実際これらの病気の予防と言っても実際は難しいです。○○を行ったら病気にならないとか、その様な特効的なものはなかなか無さそうですし。
人では悪性腫瘍は死亡原因の30%を占めるそうですが、ある動物病院のデータでは犬でも30%強が悪性腫瘍によって死亡しているようです。
悪性腫瘍の治療には手術で腫瘍を摘出したり、抗癌剤の注射や飲み薬を使って腫瘍を小さくしたりと、病気の種類によって治療法は異なりますが、正直な話、多少なりとも手術後の痛みや薬の副作用等が伴う事があるのは否めません。
そんな悪性腫瘍ですが、若いうちに「あること」を行っておけば、その内の一つである乳腺腫瘍(乳がん)は、かなりの確率で予防出来ます。その「あること」は卵巣・子宮摘出術、いわゆる避妊手術です。
早期避妊手術を行っていると、乳腺腫瘍発生の予防率はほぼ90%以上という報告があります。乳腺腫瘍の発生には卵巣ホルモンが影響しますので、若いうちに手術を行っておけばホルモンの影響を受けなくなるので、乳腺腫瘍が出来難くなるのです。
乳腺腫瘍は犬では約50%が、猫に至っては80~90%以上が悪性と言われています。
腫瘍が悪性だった場合、他のおっぱいや肺へ転移したりする事もしばしばです。
手術後に少々太りやすくなりますが、与えるエサの種類や量を管理すれば大きな問題にはなりません。
出産の予定がない動物は、病気予防や望まれない妊娠を防ぐ為にも避妊手術をご検討されては如何でしょうか?
第四十六回
「今日はどうされましたか?」
「3日前から耳を痒がってパタパタと耳を振ってるんです。それに臭いも酷くて」
そう言って飼い主さんは愛犬を診察台に載せてくれます。
耳鏡を使って耳の中を覗いてみると、確かに耳の穴は炎症を起こして赤みを帯びていますが、中はとても綺麗。汚れも殆どありませんし臭いもありません。
「おや?汚れはそれほど無いですよ。耳の穴も全然臭わないですねぇ。」
飼い主さんにそう告げると、
「余りに汚くて診て頂くのに申し訳ないと思ったので、家で綺麗に掃除してきました」。
こうおっしゃる飼い主さん、時々いらっしゃいます。
こうなると私たち獣医師はちょっと困ってしまうことがあります。
「どの位汚れてましたか?」
「えーっとですね、凄く汚れてました」
「凄くですか。飼い主さんの凄くと、私たちの凄くのレベルが一緒なら良いんですが。」
「あ、そうですよねぇ。汚れ取っちゃったら判らないですよねぇ。」
どの位痒いのか?どの位耳あかで汚れているのか?それを目で見て判断することも重要な検査項目なのです。
汚れの状態がどの様な物なのかを見て、耳あかを染色して顕微鏡で確認してどの様な治療を行うかを決めるのです。
その手段を奪われてしまった私は、飼い主さんのお話から状況を事細かく聞き出し、汚れや痒みの判定をして治療します。
飼い主さんとしては良かれと思って掃除をして下さったのでしょうけど、耳の病気以外の皮膚の病気などでも、病院にいらっしゃる際には是非「汚れたまま」「汚いまま」ご来院下さい。私たちは動物がどれだけ汚れてても臭っても全く気にしませんので。
第四十五回
人の妊娠期間は約280日、象に至っては640日という長期間だそうです。それに対して犬や猫の妊娠期間は約63日前後と比較的短めです。
今回、時を同じく2頭の犬のお産に関わる事が出来ました。
1頭は交配日時から何から全てが判っている状況でのお産だったので、こちらとしても色々と心の準備が出来て楽だったのですが、もう1頭は飼い主さんでさえも何時妊娠したか判らない状況で、最初は「何か調子が悪そうだ」という事で来院されました。検査をしても何処も悪いところが見あたりません。念のため超音波エコー検査をしたところ、お腹の中に何か見えました。胎児の心臓は妊娠1ヶ月頃から確認出来るのですが、その時はまだそれすらも判らない状況でした。大体からして妊娠しているなんて誰も思ってないんですから(笑)。念のため1週間後に再検査となり、その結果具合が悪そうな原因は無事「妊娠」であることが判明しました。ただ、妊娠しているのが判っても交配日が何時か判りませんから、出産日を予想する事も困難を極めます。手掛かりは胎児の心臓が見えたのが大体妊娠1ヶ月目位と考えられる事と、出産の前日に体温が下がる事だけです。飼い主さんに体温測定をお願いし、朝晩測定して貰う事になりました。日にちは過ぎてお腹もドンドン大きくなりお乳も出てくるようになっても、肝心のワンちゃんは産む気配を見せません。飼い主さんも心配になってきて何度か検診に来てくれました。そしてデータから勝手に予想した予定日の夜になり、ワンちゃんは私達の心配を他所にしっかりと立派な子犬を出産したのでした。
結果オーライでしたが、本当にドキドキハラハラな数週間でした。
第四十四回
動物も長寿になり、心臓病や腎臓病、肝臓病などの慢性疾患が増えてきて、在宅での長期投薬の機会が増えてきました。人と同じく病気の治療には、糖尿病などの特殊なケースを除いて殆どが内服薬、所謂飲み薬で行います。薬を素直に飲んでくれる動物は苦労が少ないのですが、ほとんどは飼い主さんが苦労して漸く「ゴックン」というのが実際ではないでしょうか。そう言った問題がクローズアップされてきたためか、製薬メーカーさんも「飲みやすい薬」を色々と開発してくれています。動物が好む味や香りを付けたり、ジャーキータイプの財形にしてくれたりと、色々な工夫が見られます。そんな美味しい薬が出来た事が原因かどうかは判りませんが、ちょっとした事件が起きました。
心臓弁膜症の治療の為に継続して薬を飲んでるワンちゃんがいるのですが、いつものように診察に来院され、状態が安定しているので一ヶ月分の心臓のお薬をお持ち帰りになりました。お家に着いて、飼い主さんは薬を入れた袋をテーブルの上に置いて、用事を足すために少しの時間外出して帰宅したら、なんと置いてあった一ヶ月分の心臓のお薬が見あたりません。薬が入っていた袋にはワンちゃんの綺麗な歯形が付いていました。驚いた飼い主さんは直ぐに病院に連絡、薬を飲んでしまってからそれほど時間が経過していないようなので、すぐさま胃洗浄処置を行いました。
全身麻酔を掛け口から胃袋に太いチューブを入れて胃の中を洗浄します。飲み込んでしまった心臓の薬の大半が無事回収されました。今回は発見が早かった事で事なきを得ましたが、事故を未然に防ぐためにも薬の保管は動物や小さいお子さんの手の届かない場所にしましょう。
第四十三回
書道の世界には「永字八法」と言う言葉があります。これは漢字の「永」の字には筆運びの基本が八つも入っているので、この字を練習すると上手になると言う意味です。我々獣医師の仕事の中で永字八法と言えば、皆さんもおなじみのメス動物の避妊手術に当たるかと思います。この手術、我々が最初に覚える手術ではありますが、だからと言って決して簡単なものではなく、全身麻酔法、切開法、血管結紮法、縫合法等、他の手術に通じる大半のことが網羅されています。この手術をどんな動物に対しても完璧に淀みなく行うことが出来るように我々は日々訓練しています。
そんな避妊手術ではありますが、手術のしやすい動物、しにくい動物が居るのは確かです。肥満の動物はそうじゃない動物に比べて圧倒的に難儀だと言えるでしょう。栄養満点な動物を前にした時はきっと殆どの獣医師が「これは大変だぞ」とある種の覚悟をすること間違いないと思います。
脂肪でヌルヌル滑る状態の中で臓器を摘出するのは、例えるなら冷えた天ぷら鍋の中に手を入れて作業をするような感じと言うとご想像頂けるでしょうか?
手術手袋に付いた脂をガーゼで拭き取り、必死の形相で血管を縛ります。手術助手も押し寄せる脂肪を必死に抑えてます。内臓にたっぷり付いた脂肪からもじわりと出血してきてこちらもドキドキハラハラ。
心臓病ではやや肥満傾向が良いなんて話もありますが、手術する時は出来れば中肉中背でいて頂きたいと願う訳です。以上、全道の獣医さんからのお願いでした(笑)。
第四十二回
3月11日に起きた東日本大震災では、沢山の尊い命が犠牲になりました。心よりお見舞い申し上げます。またメディアでは余り出てきませんが、被災された人達の中には動物を飼われていた方も沢山いらっしゃるでしょう。犬や猫などもその時一緒に被災してしまった訳です。そんな中、海の上を漂流していた犬が巡視艇によって保護されたと紙上に掲載されていました。命が助かったことは本当にラッキーだったと思います。ただ私は次の瞬間に「果たしてこの犬は無事飼い主さんの元に戻れるのだろうか?その為の何か手掛かりは残っているのだろうか?」と思ってしまいました。狂犬病予防注射を受けていて、鑑札や注射済票が首輪に付いていれば、そこから飼い主さんを見つけることは簡単です。
でももし首輪が外れてしまっていたら、その犬の手掛かりはほぼ皆無です。
こんな時マイクロチップが動物の体内に入っていれば、それこそそのまま外国に流れ着いたとしても、その動物が何処の国の犬なのか、飼い主の情報、動物の種類、年齢、性別、生年月日まで全て判るのです。
マイクロチップを挿入するには、ちょっと太めの針を皮膚に刺さなければならないので、ほとんどの場合問題なく処置出来ますが、痛みに敏感な動物は避妊・去勢手術の時にでも一緒に埋め込んでおけば痛みを感じずに処置出来ます。
今回漂流していた犬は、奇跡的に飼い主さんの元に戻ることが出来ましたが、迷子になった時や万一の天災に備えて、動物へのマイクロチップ装着を今一度ご検討頂けたらと思う次第です。
ハヤシ犬猫病院 林茂
第四十一回
クロちゃんは生まれつき背骨に障害を持っていました。
私は「普通の動物よりも飼育が大変だと思いますから、もし可能ならお店に返した方が良いかもしれませんよ」と飼い主さんにお伝えしました。でも飼い主さんは「せっかくの出会いですし、このまま私は頑張ってこの子を育てます」と固い決意を述べられました。
飼い主さんの愛情に支えられ、クロちゃんはスクスクと育っていきました。
ただ全てが順風満帆という訳には行きませんでした。
ある時には血液の免疫病に襲われ、生死の境を彷徨ったこともありました。
血液からは血小板が全く無くなってしまい、全身内出血の青あざが出来る状態です。
また晩年には血液のガンに罹りました。
全身至る所のリンパ節が大きく腫れ上がってしまいました。
飼い主さんはその度に「この子の生命力に掛けます」と言って積極的な治療を選択されました。
テレビ番組のナレーションをお借りするのなら、どちらの病気の時も「何ということでしょう、クロちゃんは毎週の辛い治療に耐えて見事病気を克服することが出来たのです。」という感じで復活してくれました。
それでも寿命という摂理には抗えず、つい先日15年の生涯を終えました。
飼い主さんも「有意義な15年でした」と言われました。
新聞の記事に、人生プラスもマイナスも同じだけと言う言葉がありました。
クロちゃんの背骨を個性と考えたなら、クロちゃんはプラスの人(犬)生を送ることが出来たのではないかと思います。
第四十回
「心臓病に限って言えば、人間では同じ心臓病患者なら、太っている人間の方が生存期間は長い」
一瞬「えっ?」と思うような「Obesity Paradox、肥満のパラドックス(逆説)」という論文があります。
全ての心臓病にこれが当てはまるのか等、まだこの説は研究を重ねなければならない様ですが、小太りの方にはほんのちょっとだけ朗報な気がします。
最近では犬でも人間と同様の見解で、心不全になってからは体重が増えるよりも減ってしまうことが宜しくないとされています。
心臓病になっても体重が維持出来ている間は良いけど、食べているのに痩せてくるようなら危険信号と言う事です。
心臓病に関しては以上の様な報告がありますが、別の論文を調べますと、とある比較試験の結果では通常量の食事を与えた犬と25%ほど食事を減らした犬とで犬の寿命に差が出たそうです。
長く生きられたのは、食事を制限した方の犬でした。
その論文では、「肥満を防止することによって、老化に伴う病気の発症年齢を遅らせることが出来た。」と報告されています。
勿論太らないからと言って、老化に伴って起こりやすい心臓病、関節疾患、ガン等、病気の発症そのものを無くす事は出来ませんが、リスクはより後回しに出来る様ですね。
我々人間と、言葉を話せない動物の治療を完全同一に考えるのは難しいですが、それでも極端に太らせず痩せさせず、その動物の適正体重を維持した生活をすることが大事なのは異論がない所ですね。
第三十九回
今年も新型インフルエンザが猛威を振るっているようですが、皆さんは予防注射はお済みですか?。私は以前感染して大変な目にあってからは、毎年予防接種を欠かしません。そんな中、とあるスタッフの沢山いらっしゃる動物病院で職員さん全員がインフルエンザに罹ってしまい、やむなく病院を臨時休診する事態になったそうです。どうやら仕事の忙しさのために何方も予防接種を受けてなかったそうです。
そんな話と似たことが最近ありました。
猫を多頭飼育しているご家庭で、ある時迷子になっていた子猫を家に入れたところ、どうやらその子猫が風邪をひいていたらしく、気づいたときには家の猫達が全頭感染してしまいました。次から次へ発熱、食欲不振、くしゃみ、鼻水、めやに、よだれと言った風邪の諸症状を発症し、通院が入れ替わり立ち替わりの状態でした。
「こんな事なら、ちゃんと予防接種しておくんだったわ。お金云々より、風邪をひいて餌を食べられないネコを見ているのが可哀想でなりませんよ。」と猫が治療を受ける最中に本当に気の毒そうにお話ししていました。
当たり前ですがウイルスは目に見えません。人間であれば、マスクをしたり、外出後にうがいや手洗いをする事である程度感染を予防することは可能ですが、動物はそう言う訳には行きません。
治療よりも予防、罹らないに越したことはありませんので、多頭飼育の方は勿論、一頭飼いの方も予防注射はお忘れ無く。
第三十八回
今から20年以上前、私が獣医大学生の頃の話です。薬理学という授業がありました。体に入った薬がどのようにして効くのか等を勉強する学問です。
一般の教室で教授の話を聞く講義の他に実習があります。当時の薬理学実習では、マウスやラット、カエル等実際の動物を使った実験が行われていました。心臓や筋肉の動き方や腸の動き方を調べるために、実験動物達の命を絶たなければならないことも多々ありました。その行為は、まだ大学に入って余り動物を触ることがなかった私たちには非常に辛い行為でした。
そして実習が終わった後には実習で知り得た内容をレポートにして提出しなければなりません。
ある時、私は教授に提出するレポートの最後にこう書きました。
「動物の命を助けるのが獣医師の仕事なのに、実習では動物の命を絶ってしまう。この矛盾が辛いです」と。
翌週、そのレポートが戻ってきました。
そこには教授のちょっとクセのある字で
「小さな命とはいえ、実験動物の命を絶つのは大変心苦しいものです。ですが今皆さんに覚えて頂きたいのは「一殺多生」の精神です。実習で死んでしまった動物達の命を無駄にしない様、今行っている実習をしっかり将来に役立てて下さい。」
こう書かれていました。
たぶん教授はもう忘れてしまっていると思いますが、私にとっては今でも忘れられない言葉となっています。
無くなって良い命など一つも無い。
時々この言葉を思い返ししています。
第三十七回
地震が来る前に象やナマズやネズミが異常な行動を示したとか、アニマルセラピーの世界ではイルカや馬が人間の感情を読み取るとか、動物には不思議な力があるなんて事が昔からまことしやかに語り継がれていますが、小型犬のカンちゃんももしかしたらそんな力を持っているワンちゃんなのかも知れません。
ある日のこと、夜遅く家族全員寝静まってからのことです。血圧の持病を持ったお父さんがトイレに起きました。その行為はいつもの事ですから、ご家族は誰も目を覚ますことはありません。でもその日はちょっと事情が違ったのでした。お父さんはトイレで用を足しているときに意識を失って倒れてしまったのでした。
さぁ大変です。ご家族は全員夢の中。でもカンちゃんはお父さんの異変に気づきました。普段は一緒にぐっすり寝ているはずのカンちゃんがトイレの前でひたすら吠えます。その余りに異常な吠え方にさすがのご家族も目を覚まし、何かと思ってトイレのドアを開けたら、そこには意識を失ったお父さんが倒れていたそうです。そしてお父さんは救急車で病院に運ばれ無事一命を取り留めたのです。
お医者さんの話では、朝まで倒れたままでいたらお父さんは助からなかったかもとか。まさにカンちゃんのお陰で九死に一生を得るですね。
皆さんのお宅の動物は、何か不思議なパワーを持っていそうですか?え?食べて寝てるだけ?。それはきっと「癒し」のパワーです(笑)。
第三十六回
年を取った小型犬でよく見られる心臓弁膜症。施設はまだ限られていますが、動物も弁膜症の治療に人工心肺を操作して手術を行う様な高度医療がすぐそこの時代になりました。
そしてハッキリ判ったことがあります。まだ正式な論文として発表はされていないようですが、心臓病になった犬の心臓弁から、その犬の口の中の虫歯菌と同じものが検出されたそうです。
以前から、歯が汚いと心臓病になると言われていましたが、今回の様な動物が生きている状態でそれが証明されたのは本当に凄いと思います。
最近は動物の歯科治療も高度な技術が使える様になり、人と同じように歯の根の治療などの技術も進んで来ましたが、どのような病気でも言える様に、病気は「治療より予防」です。病気にならない様にすることが一番重要なことです。
小さな子供が好きな子供歯磨き粉があるように、動物用歯磨き粉も各メーカーから出ています。麦芽味やチキン味の歯磨きは、一度味を覚えると動物が好んで舐めてくれます。それらを上手に使うことで動物の歯を綺麗にしてあげるとともに、口を触る行為からお互いスキンシップを持つ事も出来るでしょう。
ただ、今まで触ったことのない動物の口にいきなり歯磨き粉を付けた歯ブラシを持って行くことは止めて下さいね。動物もビックリして飼い主さんの手を噛んでしまう恐れがあります。最初は口を触る事に慣れる事から始めて、ゆっくり焦らず行って下さい。
第三十五回
以前「KY(空気読め)」という言葉が流行りましたが、犬や猫は私たちが思っている以上に感受性が高いようです。
先日も家族の留守中に犬が家の中で粗相をして困ってると相談を受けました。
今まではそんな事なんて無かったのに、一体どうしたのだろう?もしかしたら認知症になってしまったのではないか?と。
お話を聞いている内に、愛犬の認知症の疑いは晴れましたが、どうも原因はスキンシップ不足にありそうでした。
仕事が忙しくなり、愛犬と触れ合う時間が極端に減ってしまったそうです。
その結果愛犬は欲求不満となり、そのはけ口として家の中のあちこちで粗相している様でした。
「どうでしょう?お仕事で大変だとは思いますが、もう一度愛犬との時間を作って貰えないでしょうか?」
「判りました。出来るだけ頑張ってみます」
数日後、飼い主さんにその後の状況を尋ねると、
「帰宅してから出来るだけ犬と接触する時間を増やしてみたら、何となく犬の気持ちが安定した様で以前の様に留守中に悪さする事もなくなりました。まさかとは思ったんですけど犬に話しかけてると何となく嬉しそうな顔をしてるんですよ。言葉、判るんですかね。」
「言葉の内容は判らないかも知れませんけど、飼い主さんが自分に興味を持ってくれてるという感覚はしっかり伝わってると思いますよ。関心を持ってくれて嬉しかったんでしょうね。」
「愛情の反対は憎悪ではなく無関心」
そんな言葉を思い出した秋の一日でした。
第三十四回
この原稿を書いている時点では、朝晩は肌寒く吹いている風にも秋の気配が感じられる位になっていますが、今年はエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、オゾン層破壊、地球温暖化なのか、7月は天気が少しぐずつきましたけど、8月から9月半ばまでははとても暑かったですね。本州では40度に届きそうな殺人的暑さですし、北海道でも30度を超える日が何日も続きました。
「今年はいつもの年より凄く毛が抜けて、ブラッシングをしてもしても全然追いつかないんですよ。家中が毛だらけで掃除も大変だし、人間もそうだけど動物も暑いと何かと大変よね」
「そうですね、人間は暑ければ薄着になってビールでも飲んでいれば良いですが、動物はそう言う訳にも行きませんからね。せめて毛換わりをして少しでも涼しくなろうとしてるんでしょうね」
診察中もそんなやりとりが多かったような気がします。
犬や猫は汗腺が余り発達してませんから、人間や馬などのように全身で汗をかくこともなく、主に舌を口から長く出してハァハァすることで体温調節をしています。夏に冬毛が抜けることで、皮膚の風通しを良くして体温を下げているようです。
実際、長毛の動物の毛をライオンのようにカットしたり、地面に触れる胸からお腹部分だけでも短くカットすると、動物はかなり楽そうです。
やや季節はずれな感もある話題ではありますが、来年も暑くなるようでしたら愛犬・愛猫のサマーカットもご一考頂けたらと思います。
第三十三回
カプノサイトファーガ・カルモニサス感染症。先日のテレビ番組でも特集されていましたが、我々の元にも獣医師会からもその疾患に関しての通達が来ていました。
ある日、人間のお医者さんが検診のために愛犬を連れて来院され、会話の中でふとこの病気のことについてお話しを始められました。
「先生、カプノサイトファーガって病気知ってます?」
「カプノサイトファーガ、ですか?そう言えば聞いたような、ちょっと待って下さいね」と言って資料を再度確認します。
「えーっと、これは動物から感染する病気ですね。」
「私たちは普通に動物と接していれば良いんですよね」
「そうですね。普通の接触であれば問題ないと思います。ただ中高年以上で何らかの基礎疾患をお持ちの方の場合は注意が必要のようですね。」
「うちの患者さんでね、この病気のことを凄く心配している人がいて、飼っている犬に口移しで食べ物をあげてたけど大丈夫だろうかって。だから『幾ら大好きだからと言って犬とチューはしない方が良いよ』って言っておいたんだけど、注意としてはそれ位で良いんですよね。」
「そうですね、免疫力が弱った人が犬猫に噛まれたり引っ掻かれたりすると発症する病気の様ですから、確かにそのような濃厚接触な行為は出来れば控えた方が良いでしょうね」
「チューをするなら人間と、ですよね(笑)」
なかなか冗談の判るお医者さんのようでした。
え?愛犬の検診?無事どこも悪くなく健康でした。
第三十二回
動物医療も高度化したお陰で、動物が長生き出来るようになったのは非常に喜ばしいことですが、諸手を挙げて喜んでもいられない事態も起きてきています。
ここ最近、その問題に対しての相談を受けることが続きました。それは犬の認知障害症候群に関しての問題です。
認知障害症候群には、排泄行為の失敗、感情表現の消失、行動や反応の変化などがありますが、生活時間帯の乱れが一番の問題となるようで、夜に寝ないでずっと起きていたり、家の中を鳴きながら歩き回っていたりと、状況はかなり深刻な場合があるようです。
先日も一日中鳴いている犬の飼い主さんから相談を受けました。
「夜の間ずっと鳴いているのであれば、日中は疲れて眠ってるのではないですか?」とお尋ねしたところ、「3時間位触っても起きない位にグッスリ眠ってますが、それを過ぎるとまた家の中をひたすら歩き回って鳴き続けるんです。ご近所さんの手前もありますので、本当に困ってるんです。一体どうなってしまったのか私たちもさっぱり判らなくて。」と事態はかなり深刻です。
認知障害症候群の予防には動物とのコミュニケーションを取ることを心がけたり、サプリメントを与えたりすることが有効とされていますが、夜鳴き等の症状が出てしまってからは、鎮静剤や睡眠剤に頼るしかないのが現状です。この様な事態を少しでも回避するために、動物が若いうちからなにがしかの対策を講じた生活を送られることをおすすめします。
第三十一回
子供の頃の不摂生がたたったのか、恥ずかしながら私の歯は、ほぼ全部が「治療経験あり」な状態となっています。奥歯は治療の甲斐無くブリッジ処置されているところもある始末です。後悔先に立たずではありますが、子供の頃からちゃんと歯磨きを行い、虫歯になっても嫌がらずに歯医者さんに行っていれば良かったなぁと今更ながらに後悔したりしています。
ある日、「口が痛がって食欲が落ちてきている。」と飼い主さんが猫ちゃんをお連れになりました。
診察室に招き入れ、猫ちゃんの口の中を見ます。どうやら重度の歯肉炎を起こしているようです。
「歯茎が赤く腫れ上がっていますね。」と私がお伝えすると、飼い主さんは「虫歯ですか?」と尋ねました。
「これは虫歯ではありません。歯肉炎という歯茎の病気です。原因は色々でウイルス性、細菌性、免疫の異常などが考えられます。」
「そうですか、虫歯じゃないんですか。口を痛がるからてっきり虫歯かと思いましたよ。」
「猫ちゃんは虫歯には為らないようですよ。今のところ猫ちゃんの虫歯(う歯)に関して学会論文は出てないそうです。」
「え?そうなんですか?だとしたら羨ましなぁ。」
「そうですよね、私もすごく羨ましいですが、その代わりに歯茎がこんなに赤くなるのは勘弁ですけどね。」
猫ちゃんには歯肉炎を抑える注射をしてお帰り頂きました。明日からはいつものように食欲が戻ってくれることを願ってやみません。
第三十回
先日、飼い主さんの見守る中、15才の中型犬が大往生を遂げられました。亡くなる数日前から食べることも立ち上がることも困難になり、最期はゆっくりと深い呼吸をしてお亡くなりになったそうです。
このワンちゃんは、晩年に大きな病気を患い、飼い主さんの懸命な治療並びに介護の元に暮らしていたのです。
飼い主さんは余った治療器具などを返却するために、病院にいらっしゃって下さいました。
「最後の頃はは下の世話や食事など、色々大変でしたよね」と飼い主さんの労をねぎらう言葉を掛けたところ、思わぬお返事が帰ってきました。
「いえいえ、全然ですよ。そんな事一度も苦労だと思ったことはないですよ。だって家族だし、愛してたし(笑)。愛だよね、やっぱり」と一緒に来ていたご家族と頷いていました。
「色々楽しい思い出を残してくれたんだもの、私たちが全部面倒を見るのが当たり前じゃないですか。年を取ったからって捨てる訳にも行かないし、動物を飼うってそう言うことでしょ?。可愛いときも病気の時も全部含めてあの子。あー今思い出してもやっぱり可愛いわ(笑)」
ここ数年減少傾向にはあるようですが、北海道でも毎年1万頭弱の犬猫が安楽殺処分されています。
1日300頭の割合で飼い主さんの都合で命を失っています。動物を飼うことはファッションではありません。どんなことがあっても最後まで飼い遂げる覚悟を持って、動物を飼って(買って)頂きたいと思います。
第二十九回
21世紀の時代、パソコンやインターネットという物は、一部の方だけが扱うような特殊な道具ではなくなりました。このコラムをお読みの方もご自身でホームページやブログを開設されている方も多いことでしょう。今では知りたいことのほとんどがインターネット上にあると言っても過言ではありません。ただインターネットの世界にも色々な落とし穴が隠れている訳で。
ある日、ネコをつれた飼い主さんがやってきて、診察室に入るやいきなり一枚の紙をだし、「この治療をお願いします」と切り出されました。
その紙はインターネットのホームページを印刷したものでした。
「うちのネコの症状とほとんど同じで、治療法も書いてあるので、この治療法をお願いします。」
その用紙を見せて頂きました。なるほど確かに症状は似ています。ですが全く同じというわけでもないので、飼い主さんにご説明しいくつかの検査を行った結果、その猫ちゃんは用紙の病気とは別の物と判り、違う治療を行うことになりました。飼い主さんは「ホームページに書いてあるから大丈夫だと思ったんですが、やっぱり別のこともあるんですね」とばつが悪そうに頭を搔きながらお帰りになりました。病気は似たような症状を示しても、時に全く別のことがあります。やはり実際に見て触って調べてみなければ判らないこともあるのです。インターネットの情報を見て色々悩まず、まずは専門家にご相談する方が治療の早道のこともあります。
第二十八回
小型犬を連れた飼い主さんがやってきました。診察室に招き入れ診察台に乗せ体重を測定します。
「おや、半年前よりも500gほど体重が増えてますね。約10%増ですが何かありましたか?」
「実は・・・」飼い主さんは事の顛末を話し始めました。
以前は飼い主さんご本人が飼育していたワンちゃんですが、事情によりご実家で飼育することになったそうです。それまではしっかりとした食事管理をされていたのですが、ご実家ではご両親が余りの可愛さに「欲しがるのに食べさせないのは可哀想だ」と独自の持論を展開し、色々な食べ物を与えてしまうらしく、あっという間にふっくら体型になってしまったのです。
「親は、病院に行っても運動と減量用療法食を薦められるだけだって言うんです」
なるほど、ご両親は肥満についてはしっかりご理解されているようです。
飼っている動物に食べ物を与える与えないで、そのご家族の仲が悪くなっても困りますので、一つの提案をさせて頂きました。
それは
「ご両親には、愛犬の体重が増えてしまった事実だけをお伝え下さい。それ以上の事は何もお話ししないで下さい。」でした。
その後、ワンちゃんの体重がどうなったか?
お陰様でちゃんと無事に元の体重に戻りました。ご両親も肥満が良くないことは気づいていたんですね。
可愛がることと甘やかすことは別の話です。
現在、肥満は立派な「病気」と認識されています。色々な病気の引き金になることが判っていますので、くれぐれもご注意下さい。
第二十七回
人間の性格も十人十色のように、動物の性格も様々。
検査や治療、手術のために入院となった場合、こちらの意図を酌んでくれているのか協力的に大人しくしている動物から、「こんな狭いところに入れられるのは絶対にイヤ!」とケージの中で大騒ぎしたり、「絶対に触らないでよ」とばかりに警戒バリヤーを張り巡らせたりと、入院時の行動は動物動物でまさに千差万別です。
ドリトル先生のように、動物とお話しが出来れば、動物達に状況を説明して納得して頂くのでしょうけど、残念ながら私が話せるのは人間の言葉だけ。多少動物の気持ちを理解することは出来ても、それも時に的外れなこともあるでしょう。
簡単な検査であれば短くて半日程度のお預かりで済むわけですが、手術の後や大きな病気の場合などは時に一日から数週間の入院を余儀なくされることもあります。人間であれば「病院に入院する」事での安心感がある程度あるかと思いますが、動物の場合は、治療は痛いし、周りは知らない人間や動物ばかりだし、狭いケージの中に閉じ込められてるし、安心よりも不安が先に感じてるのではないかと思います。
治療によっては入院していなければ出来ない事もありますから、その期間は致し方ないのですが、治療の目処が付けば出来るだけ早く飼い主さんの元にお返しして、通常の生活を送って頂きたい、入院のストレス状態から開放してあげたい、その方が治りも早いだろう、そんな事を考えつつ入院のメリットとデメリットの境界を模索つつ治療しています。
第二十六回
今年は雪の到来が例年より少し遅い札幌ですが、それでも寒さはしっかりとやってきています。人間の世界では新型インフルエンザが猛威を振るっておりますが、動物、特に猫もこの時期に風邪をひいてしまうことが多いようです。
先日も猫を多数飼育している家の猫ちゃんが風邪をひきました。案の定次から次と感染が蔓延して毎日違う猫ちゃんが来院して大変な思いをされたご様子でした。飼い主さんは「これ、いつまで続くのかしら?」ととても困惑気味でした。カルテを見ると、他の猫たちもワクチンは数年前に打ったきりで、効果が無くなってきたのでしょう。
猫の風邪は発熱、くしゃみ、鼻水、喉の炎症から来る声嗄れに加え、結膜炎を起こし涙目になることが多いです。これは風邪のウイルスが目や鼻の辺りで増殖するためのようです。鼻の感覚が麻痺しますから、発熱で食欲が落ちてしまうことに加え、鼻が効かなくので余計に食欲が落ちてしまいます。
フードは人肌(猫肌?)に温めて、匂いが出やすくしたりすると良いかも知れません。
治療は点滴治療やインターフェロン、抗生物質などの投与になりますが、なにより「風邪をひかさない」努力が一番かと思います。ウイルスは乾燥して防御機能が低下した粘膜から侵入しますので、暖房を入れる季節になったら、粘膜を保護するためにお部屋の加湿のことも忘れずに行ってください。
あとはやっぱり定期的にワクチンを接種しておくのが一番ではないかと思います。
第二十五回
「エキノコックス?、あぁキツネの病気ね。」そんな風に考えていらっしゃる方は多いと思いますが、実は人間にとってとても怖い病気なのです。逆にキツネにはほとんど何の害もありません。
先日、札幌市内でエキノコックスに感染した犬が確認されました。このワンちゃんは近所の広い公園をノーリードで散歩していて、たぶん野ねずみを食べてしまったかでエキノコックスに感染してしまったようです。ウンチに何か白いものが沢山付いてると言うことで近所の動物病院を受診し、そこでエキノコックス症と診断されました。この病気、犬は「下痢」くらいの症状しか出しません。また人間がこの虫の卵を誤って飲み込んでしまっても、最初は何の自覚症状もありませんが、5年から20年という長い年月をかけ肝臓を冒し、気づいた時にはほぼ手遅れと言うことが多いようです。
予防は「散歩の時には犬を絶対に放さない」ことだと思います。リードを付けていれば公園などで愛犬が野ねずみを食べてしまう危険性は低くなりますし、飼い主さんもそのウンチを触ることもないでしょう。もし愛犬が治りにくい下痢が続いたり、エキノコックスの感染の心配があれば、動物病院でエキノコックスの検査を受けるのも良いでしょう。新鮮なウンチを持って行けば簡単に検査ができます。飼い主さんも念のために検査をお受けになる方が宜しいかと思います。人間の検査に関しては、最寄りの保健所等にお尋ね頂ければ教えて頂けます。
第二十四回
ある日、一頭の白い犬を連れた飼い主さんが来院されました。受付を済ませてお待ち頂いている間、なにやら待合室が騒々しいのです。
「ほれ、お座り、お座りって言ってるでしょ、全くもう、お・す・わ・り!」
飼い主さんは愛犬に一生懸命お座りをさせようとしていますが、その願いもむなしく、当の本犬?は眼に入る光景が珍しいのか落ち着きなく、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、あげくには壁におしっこをシャー。一向にお座りをする気配がありません。
後で聞いた話ですが、このわんちゃんは飼い主さんから一度も「お座り」を教えて貰っていなかったのでした。
この飼い主さんは普段余り犬と接したことがなかったために、「犬は生まれながらにお座りやお手、おかわりが出来る」と思い込んでいたようです。
この秋に行われた動物フェスティバルでは、非常に芸達者なわんちゃんが沢山参加して下さいました。お座り、お手、おかわりは勿論、伏せ、待て、輪潜りやジャンプまで、見ていてとても素晴らしいものでしたが、それをマスターするまでには飼い主さんと愛犬の涙ぐましい努力があったことでしょう。
一つ一つの芸を根気強く教え込む飼い主さんと、それを覚える愛犬の間には、目に見えない固い絆があるように思えました。
これらの芸を出来ることが犬の価値を決めるわけではないと思いますが、犬と一緒に暮らす上で、このような楽しみ方もありなのかな?と思った秋の一日でした。
皆さんのお家のわんちゃんは、何か芸が出来ますか?
第二十三回
「先生、こんにちは。その節はお世話になりまして」
そう言ってお昼時に病院を訪ねてこられたのは、先日愛犬と永遠のお別れをした初老のご夫人でした。
「こんにちは、えーっと今日は?」と尋ねますと、くるりと外の駐車場の方を振り返り車を見ます。
「実はね、また新しい家族が出来たんですよ。それでご挨拶と思って」
「そうですか、それはそれは良かったですね。」
「えぇでも私たちもそう若くないから、今から子犬を飼って育てるとなると犬と人間とどちらが先に逝くか判らないでしょ?(笑)。だから成犬を保護施設から譲り受けてきたんです。施設の人はね、5〜6歳位じゃないか?って言うから、それなら私たちもあと10年位は頑張れるかな?って。」
「そうですか、素敵なご縁があったんですね。」
「そうなの、あの時はふっとこれからは犬の世話をしなくて済むかな?と思ったのよ。でもいないと何だか淋しくてね。あんなに淋しく感じるとは思わなかったわ。もう夫婦の会話もなくなるのよ(笑)。それで相談してやっぱり犬を飼おうって事になったのね。」
「そうですよね、前のワンちゃんはご家族の中ではとても大きい存在でしたよね。」
「そうなの、だからこれからまた色々お世話になりますね。」
そう言って病院を後にされました。
動物を飼うことはとても責任のある行為です。でもその代わりに私たちに沢山の幸せを与えてくれます。
このご夫婦もまた新しい愛犬を中心に色々楽しい時間を過ごされることでしょう。
第二十二回
動物が超高齢になってから大きな病気、それも手術をしなければならないような病気になった時、私たち獣医師はとても悩みます。手術をしなければほぼ助からない病気だ、でも手術の時が最期になってしまうかも知れない。そんなジレンマに駆られることが多々あります。
今回もそのような動物が運ばれてきました。検査結果を見たら生きているのが不思議な位の状態なのです。
体の全ての臓器が悪くなる「多臓器不全」の状態になっています。
ご家族と相談し、今後のことを考えます。
「最期は家で看取ります」がご家族の結論でした。
果たしてこれで良かったのか?自分の診断は間違っていなかったのか?他の先生にもご意見を聞きました。
「この年齢ですから、長生きしてもらうには手術をしなかったことは間違いじゃないと思います。私も同じ事をお話しすると思います。」そんな答えが大半でした。
数日後、その飼い主さんから電話があり、「犬が立ち上がろうとするんですけどどうしてやるのが良いですか?」
「あれから2日ほどは動かなくてダメかな?と思ったんですけど、昨日位から少し動くようになって立とうとするんです」
来院頂き再度検査をしたところ、少しずつですが状態が良くなってきています。
フードも食べられるようになっています。
時にですが動物の生命力は、教科書に書かれていることをいとも簡単に覆してしまうことがあります。
これだけ科学が発達した時代に奇跡なんてナンセンスなのかも知れませんが、今回ばかりは奇跡を感じてしまいました。
第二十一回
「先生、毛が抜けて皮膚が赤くなって痒がってるんですけど、これって皮膚病ですか?」
体をとても痒そうにしている動物を連れて飼い主さんが来院されます。
当たり前ですが、毛は皮膚から生えています。その皮膚の状態が悪くなると毛が抜け落ちてしまいます。毛が抜け落ちる原因は様々で、バイ菌の感染やホルモン異常、ストレスなど多種にわたります。
動物の皮膚は人間の皮膚に比べ、非常にデリケートに出来ています。皮膚の一番外側にある角質層の厚さは、人間の半分以下とも言われています。人間は面の皮が厚いのです(笑)。
セラミド、聞いたことがある言葉だと思いますが、角質層の細胞同士を結びつけている物質です。これが失われると皮膚の大事な働きであるバリヤ機能が失われ、皮膚表面から色々な有害物質が進入し、アトピーなどの皮膚炎の原因となったり、また逆に皮膚内の水分が簡単に蒸発してしまい、皮膚が乾燥し痒みを誘発してしまいます。冬に乾燥肌で皮膚が痒くなる経験をお持ちの方であれば、それは想像に難しくないと思います。
皆さんも毎日洗顔し化粧水などで肌を清潔にし潤いや張り艶を保っていると思いますが、動物の皮膚も同じです。
「濡れている」と「潤っている」は違います。皮膚を正常な状態に保つためには、皮膚や毛が濡れたらすぐに乾かす、汚れたら適正なシャンプーで綺麗にする、定期的にブラッシングを行うなどが良いかと思います。
髪の毛やお肌は女性だけじゃなく、動物にとっても大変大切なものなのです。そして男性にも・・・。
第二十回
涼しい7月が終わり、ちょっと暑い8月ですね。。
皆さんペットの熱中症対策は大丈夫でしょうか?
あるオーナーさんが「ケーキを買うと付いてくる保冷剤を、バンダナ等で包んで首に巻いてあげると気持ちよさそうにしてますよ。」と教えてくれました。
なるほど、リサイクルだし何度も使えてエコで良い話だなぁと思いましたが、これにはちょっと注意が必要です。
というのも、ごく一部の保冷剤には「エチレングリコール」という成分が使われてることがあります。自動車整備に詳しい方であれば「不凍液の成分」と言えば判るかも知れませんが、やや甘みがある液体です。
エチレングリコールは腎臓にもの凄い毒性を持っています。
この甘みは動物が好むらしく、外国では結構中毒事故が起きているようです。
腎不全症状が出てしまってからは治療がほとんど間に合いません。
保冷剤をお使いの歳には、念のため製造メーカーさんに一度確認されると良いでしょう。
身近にあって危険なものと言えば、アメリカでの報告で理由はまだハッキリ判っていませんが、ブドウも腎不全になる危険性があるそうです。勿論レーズンも然りです。
キシリトールガムも大量に食べてしまうと低血糖を起こす可能性があります。ボトル入りのガムは犬の口の届かないところに保管しましょう。
猫では人用の風邪薬が危険です。アセトアミノフェンが猫には中毒物質となりますので、猫が風邪を引いたからと言って人用の薬を飲ませることは決してなさらないで下さいね。
第十九回
先日、知人の眼鏡店で眼鏡を作った際、近くのものが見えにくくなってきたことを話すと、「すこし老眼来てるね」と言われました。
老眼と言う響き、ちょっとショックでした(笑)。せめて「ミドルアイ」というのはどうでしょう?
さて実はこの老眼、動物にもあるのです。
10歳位のワンちゃんで何となく眼が白く濁って見えることがあり、飼い主さんは「もしかして白内障?」と心配して病院に来られる方がいらっしゃいます。
眼を診察させて頂きますと、目が白っぽく見えるのは水晶体が濁る白内障が原因ではなく、水晶体の弾力性が無くなって白く見える「核硬化症」いわゆる「老眼」の事が多いのです。
核硬化症は視力には問題ないと言われており、今のところ積極的な治療は必要なく、また動物は生活にそれほど不自由を感じていないそうです。
生活に不自由を感じていないと言われるのは、動物は嗅覚が人間の1億倍と言われていることも理由なんでしょうね。ただし今後白内障になっていく可能性があるので定期的な観察は必要です。
目が白く見えるもう一つの病気の白内障ですが、今は他の合併症などがなければ、人間と同じような白内障の手術も可能となっております。ただこの手術はどこの動物病院でも受けることが出来るという訳ではなく、手術用の顕微鏡を使い、専用の手術器具を駆使し数ミリの世界の手術を行いますので、眼科を専門とした動物病院を受診しなければなりませんが、獣医療の世界もここまで発達しているのです。皆さんの飼っているペット、綺麗な眼をしていますか?
第十八回
チップちゃんは10歳でした。ある日、突然食べ物を吐き出すようになり、検査の結果「重症筋無力症」という病気に罹ってしまったことが判りました。この病気は重症なら全身の筋肉が動かなくなり、立てなくなったり呼吸困難で死んでしまうことが多いのですが、軽症だと食道など体の一部分だけが冒されるだけの事もあります。それでも食べたものが肺に入ってしまい「誤嚥性肺炎」で死亡してしまう動物も少なくありません。幸いチップちゃんは食道だけが冒される状態だったのですが、それでも毎日の食事は頭を高くして立った姿勢じゃなければ喉を通って胃袋まで進まないのです。当然つばも飲み込むことが出来ません。喉に溜まったつばを吐き出しては家の中を汚してしまう毎日でした。それでも飼い主さんは薬を飲ませつつ汚れた床の掃除をする看病生活を2年以上続けて下さいました。そしてある日のこと、「最近はあまりヨダレも吐かなくなってきたんです。もしかしたら治ってきたのかしら?」と。それは病院で定期的に体重測定していることからも判りました。元の半分程にまでやせ細った体型が、少しずつですが体重が増え、それに伴い毛づやも良くなってきたのです。
薬を少しずつ減らして経過を見ていきましたが、そしてとうとう薬を中止することが出来るまでにチップちゃんは復活しました。
「軽症であれば良くなることがある」と教科書には書かれている病気ですが、良くなるまでの2年間の飼い主さんのご苦労を考えると、本当に頭が下がる思いです。今回は飼い主さんの献身的愛情が愛犬の病気を克服したと言って良いでしょう。
第十七回
いつもの様に耳の治療に来院された年老いたゴールデンレトリーバーの飼い主さんが、診察台に付いている体重計を見て一言「あら、体重が1kg減ってるわ」。やや肥満傾向にあったので、体重が落ちたことは大した問題じゃないかな?と思ったのですが、飼い主さんはその微妙な変化を見逃しませんでした。治療をしながらお話を聞くと、ここ一週間くらい何となく食欲が落ちていたそうです。念のため検査をしてみたところ、お腹の中にシコリが発見されました。
ある日本犬の飼い主さんは、何となくここ数日のおしっこの量と回数が増えたことを疑問に思われ、病院におしっこを持ってやってきました。尿検査を行ってみると、腎臓の働きが悪くなってる可能性が見つかりました。
動物は具合が悪くても、なかなかそれを表情に出してくれません。残念ですが周りが気がついたときには手遅れだった等と言うこともしばしばです。
「何となく変」、飼い主さんが飼っているペットを見てそう思ったとき、それはペットが発している危険信号なのかも知れません。
人間の病気と同じく、早期に発見出来れば、早期治療につながる病気も多いのです。
これからの季節、各種予防注射や血液検査等のために動物病院に行かれる機会が増えると思いますので、その際にかかりつけの先生に色々ご相談されると良いかも知れませんね。
検査をして何も無ければそれで良し、正常を知れば異常に気づくのも早くなります。
皆さんの飼われてるペット、本当に「健康」ですか?
第十六回
「先生、12才の雌猫ちゃんが来てるんですが、お腹が膨らんできたそうです」と、受付を担当していた動物看護師さんが伝えてくれました。老猫でお腹が膨らんできたとなれば、病気としては腹膜炎、肝臓病、ガンなどが考えられます。どれも治療が大変な病気ばかりです。早速診察室に入って頂き、飼い主さんとお話をします。「食欲はありますか?」「はい、よく食べますし、元気です」一般的に病気の場合、多くは食欲や元気がなくなるわけですが、この猫ちゃんは食欲もありますし元気具合も問題ないようです。一瞬頭が混乱しましたが、何はともあれ診察を行います。お腹を触ってみますと、私の指先になにやら感触が。エコー検査をさせて頂くと、なんとこの猫ちゃんは妊娠していました。エコーの画面には胎仔の心臓の鼓動がしっかりと確認出来ました。「あら〜、ごめんなさい、妊娠してますわ」。病気だと勝手に決めつけていた私は、自分の思い込み誤診に飼い主さんに思わず謝ってしまいました。いきなり謝られた飼い主さんもなんの事やら訳が判らなかったでしょう。その後一通りの妊娠出産のお話をさせて頂きました。世界記録を集めているギネスブックでは、イギリスの猫が30才で出産したという記録がありますが、今回の12才の妊娠も、私の中では最高記録です。また仕事をする上で、病気に対してある程度の予想はしても、あまり強い先入観を持ってはいけないという教訓にも為りました。この猫ちゃんはその後無事に子猫を出産いたしました。事実は小説よりも奇なりです。
第十五回
猫のタマちゃんは数年前からホルモンの病気を患い、飼い主さんはそのために毎日治療を続けていました。飼い主さんの懸命な治療のお陰で、タマちゃんの病気は大事に至ることなく小康状態を保つ事が出来ていました。そんなある日、飼い主さんがタマちゃんを連れてやってきました。「なんだか息苦しそうなんです」。診察をしてみると今度は重い心臓病になっている事が判りました。胸に溜まった水を抜く処置を行い、酸素室に入れて経過を見ます。ただこの心臓病は現時点では完治する病気では無いようです。今我々が行っている治療は延命措置に他なりません。飼い主さんにもそのことをお話しし、ご納得頂いて治療を続けました。そんな事が1ヶ月も続いたでしょうか。飼い主さんが重たい口調で話を切り出されました。「この子には今まで出来る限りの事をしてきたつもりですし、私たちもこの子から沢山のものを頂きました。もしこの子がこの先このまま苦しい状況が続くのなら・・・」。飼い主さんは断腸の思いで苦渋の選択をなされたようです。色々なお話をし、飼い主さんの決心の固さを確認した我々は、タマちゃんとお別れする処置を行いました。処置の間中、飼い主さんは「今までありがとうね」と何度も言いながらずっとタマちゃんの頭を撫でていましたが、そのお顔に涙はありませんでした。「実は昨日のうちに思いっきり泣きました。でもこのような決断をした飼い主の責任として、最期は笑顔で送り出してあげたくて、今日は泣くのを我慢しました」と。病院スタッフの涙が流れる中、診察室には静かな時間が過ぎていました。
第十四回
日本犬のユキちゃんは、今年17才になります。おじいさんを亡くしてからは、おばあさんと仲良く二人暮らしをしています。時々ご家族の方が様子を見に訪ねていらっしゃるようですが、普段はにユキちゃんとおばあさんとの二人三脚の生活です。ユキちゃんもそこそこのお年で心臓などに持病を抱えていて、病院からも薬を出しています。もちろんユキちゃんは自分で薬を飲む事は出来ませんから、おばあちゃんが毎日ユキちゃんに一生懸命薬を飲ませてくれています。年齢のせいで足腰が弱り、目も白内障になり、耳も遠くなったユキちゃんですが、病院に来るときにはいつも元気に待合室に入ってきます。定期健診の診察をさせて頂き、いつもと変わらない様子なので心臓の薬や皮膚の薬をお出しします。おばあさんもそれらの薬を一つ一つ確認し、ユキちゃんに「ユキ、ちゃんとお薬飲まないとダメなんだよ。あ、私もだわ」と笑いながら診察室を後にします。そして「先生、私もいい年だけど、この子がいるからこうやって元気にいられるんだよね。やっぱりこの子に頼られてるかと思うと、張り合いが出来て、毎日生きていても楽しいよ。まぁ私もこの子を頼ってるんだけどね」とユキちゃんの頭をなでながら私に笑いながら話してくれます。ヒューマンアニマルボンドと言う言葉を最近よく耳にしますが、このようなすてきな動物と人間との関係を見ていると、この仕事をしていて本当に良かったなと思います。
第十三回
車で1時間強も走れば着く距離なのに、仕事にかまけてあまり実家に行かない親不孝な自分ではありますが、それでも年に数回は実家を訪ねてみたりします。すると居間のテーブルの上にはかかりつけ医から出された薬が山になっています。ちらりと薬袋の中を覗くとどれも関節の薬のようです。「これが痛み止めで、これが軟骨の薬で、これがビタミン剤で・・・」と説明する母。私も冗談混じりに「あらら、納屋の馬に飲ませる位の量だね。そんなに飲んだらお腹一杯になっちゃうんじゃないの?」なんて笑ってみたりします。「そうだね、時々どれを飲んだか判らなくなっちゃうわ。年は取りたくないね」と母。そして最後に「お医者さんがね、足が痛いのは痩せなきゃ治らないよって言うんだよね。いっそのこと「やせ薬」でも出してくれれば良いのに」と笑いながら話していました。動物も同様で関節の治療のための薬がいろいろなメーカーから出ています。我々獣医師は、動物の症状に合わせて幾つかの薬をご処方しているのですが、年を取ってから関節疾患で悩んでいる動物の多くは、遺伝的に関節疾患になりやすい種類の動物か、もしくはやや体重オーバーな動物です。若いうちは筋肉もしっかりしていますから、ある程度の体重過多も筋肉が関節を守ってくれますが、老化と共に筋肉も衰えて、体の重みが直接手首や肘、膝、股関節などの関節に掛かるようです。病気は治療よりも予防が大事です。関節炎の予防には、計画的な繁殖、若いうちからの適度な運動、適正体重の維持が必要のようです。
第十二回
詰め込み教育だけでは世の中を渡れなくなった現在ですが、小中学校などの教育現場でも「社会実践教育」の様な事が行われてるようです。先日、時期を同じくして近所の学校の小学2年生と中学2年生の生徒さん数名が、校外学習の一環で当院に見学に見えられました。小学2年生の生徒さん達は見るもの触るもの全てが面白いらしく、病院内を所狭しと見学しては、大きな歓声を上げておりました。なぜかピンセットを見ては興奮し、注射器を見ては怖々とし、入院している動物を見て「かわいそう」と素直な感想を述べたりと、まさに興味津々って感じを前面に出しての見学となっていました。変わって中学生さん達ですが、さすがに小学生の皆さんのようなはしゃぎっぷりは無く、ある程度将来を見据えたものの見方や質問などをしてくれてました。「なぜこの仕事をしようと思ったのですか?」「獣医になるにはどこの大学に行けば良いんですか?」「どのような勉強をすれば獣医さんになれますか?」「やりがいを感じるときはどんなときですか?」など、受験とか将来を意識した質問が多かったですね。中学生の頃は将来のことなどほとんど考えず、ただいたずらに毎日を過ごし、進路を考えたのが高校を卒業する間近の自分からすれば、今からある程度将来を考えてる中学生はエライなぁなんてちょっと思ったりもしたわけです。この先我々獣医師の仕事がどのような感じになるかは判りませんが、今回見学に来てくれたような生徒さんがこの業界へ進んでくれれば、こと動物の健康管理に関してはしばらく安泰だなと思った晩秋の二日間でした。
第十一回
ある日、「先生、実はね・・・」と飼い主さんがちょっと本題を言い出すのを躊躇ってる風な口調で話し始めました。「うちの猫が酷い皮膚炎なんですよ」「どんな皮膚炎なんですか?」「毛が固まって毛玉になっちゃって、そこの皮膚が赤くなってるんですよ」。ピーンと来ました。「長毛の猫ちゃんですか?」「そうなんですよ、ブラシを掛けてやろうと思うんですけど、嫌がって出来なくて、それで様子を見てたらどんどん酷くなって」」。後日飼い主さんは猫ちゃんを連れて来院されました。ケージから出してみると、予想通りというか、ウールのセーターを洗濯機で普通に洗ってしまった時の様な、全身の毛が固まって団子状態になっています。そして毛玉で引っ張られている部分の皮膚は、地肌が赤くなっています。「これは麻酔を掛けて毛玉を刈ってしまうしかないですね」一通りの検査を行い、猫ちゃんに麻酔を掛けて、スタッフ総勢で猫ちゃんの毛玉を刈り取ります。30分ほどでライオン状態になった猫ちゃんは、薬用シャンプーで全身を洗われ、キレイさっぱりな状態になりました。「毛が無くなって暫くは寒い感じがすると思いますので、風邪を引かさないように部屋の温度に気をつけて下さいね」そう言ってお帰り頂きました。長毛の猫の場合、ブラッシングをしないと全身に毛玉が出来てしまい、皮膚炎を引き起こすことがしばしばあります。どうしてもブラッシングが出来ない猫ちゃんの場合、お一人で悩まずに動物病院にご相談してみて下さい。何か良い解決策が見つかるかもしれません。動物病院は病気の治療以外にもこのようなこともしています。
第十回
9月20日から26日は「動物愛護週間」です。全国各地で動物愛護に関する様々なイベントが行われます。札幌市も市や獣医師会が主体となり、近隣市町村の動物関連企業や団体が協力して、9月23日(敬老の日)にさっぽろばんけいスキー場におきまして「動物愛護フェスティバル2008」を開催いたします(雨天決行)。フェスティバルも数えれば今年で5回目を数え、市民の皆様に認知していただき、年々盛況な催し物となっています。長寿動物の表彰があったり、都会では普段なかなかお目にかかれない牛や馬などの大動物や、警察犬訓練デモンストレーション、ちょっと珍しいエキゾチックアニマルなどを間近で見られたりします。他にも動物飼育相談なども行っています。会場周囲を見渡せば広々とした特設ドッグランで犬たちが遊んだりと、大人から子供、そして一緒に来た動物までもが楽しめる「人間と動物共に参画型イベント」です。お時間がありましたら、是非秋の一日を動物と一緒に楽しく過ごしてみませんか?。今回はちょっと宣伝っぽくなっちゃいましたね(えへっ)。
ちなみに動物愛護週間は「動物を愛し、動物と人間の絆を深めることを目的として定められた記念週間で、アメリカ動物愛護協会が1915年に制定したのが始まりだそうです。もう90年以上前からあるものだったんですね。ただ一つ思うのは、動物愛護週間だから動物との絆を深めるのではなく、常日頃から動物との信頼関係を持っていたいものです。人間と動物、いつも信じ合えるかけがえのない仲間でいたいですね。その関係をうまくサポートできるよう、我々獣医師はこれからも皆様のお力になれるよう頑張っていきたいと思います。
第九回
「先生、この犬は大人になったらどの位の大きさになりますか?」とか「この犬の理想体重は何kgですか?」、子犬を連れてきた飼い主さんに尋ねられることが良くあります。初めて動物を飼う方にとっては不安と期待で一杯と想像します。ですがちょっと待って下さい、逆にお尋ねしますが「大人の身長は何cmですか?」「人間の理想体重って何kgですか?」。身長は遺伝に左右されるでしょうし、体重も身長によって全然違いますよね。150cmの人もいれば190cmの人もいますし、体重だって40kgが理想の人もいるでしょうし、80kgが理想の人もいるでしょう。それと同じで、動物も体格も違えば理想体重も違うんです。なので一概に「この犬はこの位になります」とか「この犬の理想体重は何kgですよ」と言えないんですね。でもそれでは何となく納得できないと思いますので、あくまで一般論ですが一つの基準を書きます。動物を上から見てお腹部分が少しくびれていて、胸の部分のあばら骨の部分を触って少し脂肪が付いている感じが理想です。例えが古いですが、昔のコーラの瓶のような感じです。首からお尻までペットボトルのように一直線だったり、あばら骨の部分を触ってゴツゴツしていたら、それは太りすぎや痩せすぎの可能性があります。
メタボリックシンドローム、最近よく耳にする言葉ですね。動物の世界ではまだメタボリックシンドロームのきちんとした基準はありませんが、犬では病院で体脂肪を測定することも出来るようになりました。動物も人間と同様に肥満による病気の危険性が高まりますので、常日頃から美しいプロポーションをキープして頂きたいものです。
第八回
病院の診療時間が終わってからや、かかりつけ医が休診日になると決まって具合が悪くなる。人も動物も良く聞く話です。その話の真相は定かではありませんが、この前もそのようなワンちゃんがいました。夕食後ににわかに苦しみだして、でも時間は一般の動物病院の診療時間が終わった夜中。普段からワンちゃんの様子を注意深く観察していた飼い主さんは「これはただごとではない」とすぐに感じて、夜間診療施設に愛犬を連れて行きました。レントゲン撮影やいろいろな検査の結果、「急性胃拡張症」であることが判明しました。この病気は特に大型犬が罹りやすく、原因は良く判っていませんが「食後」に多く発生するようです。急激に胃袋が膨らんでいき、時には胃袋がお腹の中でくるりと回って(捻転)内臓や大動脈を圧迫してしまい、一晩放置すれば死んでしまうことも多い大変危険な病気です。治療法は、全身麻酔をかけて胃袋のガスを抜いたり、胃袋が捻転していてる場合は手術で内臓の位置を元に戻したりします。今回は高齢のワンちゃんでしたので麻酔の危険性もありましたが、飼い主さんのとっさの判断と夜間施設の獣医師の迅速かつ的確な処置により、そのワンちゃんは無事一命を取り留める事が出来ました。このように大型犬の「急性胃拡張・捻転症候群」の治療は時間との勝負的な部分がありますので、食後にかかわらず愛犬のお腹が急に張ってきて苦しそうにしているときは、あまり時間を置かずに病院で検査を受けた方が良いでしょう。全ての病気に言えることですが、飼い主さんが動物の状態の変化にいかに早く気づくかが、治療への早道です。
第七回
「先生、この耳、輪ゴムで縛っちゃったら少しは風通し良くなるかしら?」
外耳炎を繰り返す垂れ耳のワンちゃんを飼われてる飼い主さんから、時々冗談交じりに言われる言葉です。
「そうですね、でもすぐに嫌がってゴムを外してしまいますよ」なんてやりとりをするわけですが、実はこの輪ゴムは時に非常に怖い事態を引き起こすことがあるのです。
実際に耳を輪ゴムを使って頭の上で縛った飼い主さんがいました。これで耳の蒸れが原因の外耳炎からも解放されると思っていたようですが、なんと、こともあろうか数週間後に耳に輪ゴムが食い込んで、耳がスパッと切れてしまいました。
手術によって傷口はキレイになりましたが、かわいそうに耳はもとの半分の長さに。幸いにも毛が伸びてほとんど目立たなくはなりましたが、飼い主さんは後悔しきりでした。
何かの拍子に手首に輪ゴムが巻き付いてしまい、指先がドラえもんの手のように腫れ上がったワンちゃんもいました。最初は手首が腫れた理由がわからずこちらも大変でしたが、注意深い検査で手首に輪ゴムの一部を発見、食い込んだ輪ゴムを取り外して事なきを得ました。
他には、輪ゴムが頭の部分に巻かれたワンちゃんも。首の部分が輪ゴムで切られていました。
輪ゴムのキズはほとんど血も出ずにじわじわと皮膚に食い込んでいくため、飼い主さんの発見がどうしても遅れがちになります。
動物は時として人間が思いもよらないことをしてしまいます。「まさか」はすぐそこにあるのです。
動物の手や口の届くところには、輪ゴムやヒモなどは置かないようにご注意ください。
第六回
年の瀬頃には「今年も雪が少なくて除雪が楽で良いね」なんて話していたら、年明けからその遅れを取り戻すかのように雪が降りだし、2月には交通機関が麻痺するほどの大雪に見舞われ大学入学試験の延期なども起きるほど。気がつけば私の住んでいる地域は市の除雪予算を大幅に超えるだけの積雪量となりました。降り続ける雪を見てますと、人間は自然に対して如何に無力なのかを思い知らされます。それでも3月の声を聞く頃には気温も上がり、どうなることかと思っていた雪も溶け始め、主要幹線道路にはほとんど雪が無くなり、歩道も歩きやすくなってきて、一歩ずつですが北の大地にも春が近づいているのを感じ取れるようになってきました。春になると草木とともに顔を出してくるのが、犬の排泄物です。冬の間は雪に埋もれて隠れていた例のモノが、小さなモノから大きなモノまで、各種取りそろえて道端の雪解けとともに地面から顔を出し始めます。自治体によっては色々と対策を検討し、飼い主さんへの犬の排泄物の後始末を啓発するプレートなどを配布してくれたりしていますが、それでもまだ春の有り難くない風物詩として見受けられるのは、私たちにとっても大変寂しい話です。道路に落ちている排泄物は、見た目ももちろんそうですが、場合によっては各種病気の感染経路にもなりえます。病気を持っているワンちゃんの排泄物を、別のワンちゃんがペロリと舐めてしまって病気が感染してしまうことは、実はよくあることなのです。道路は犬の排泄施設ではなく公共の場ですから、愛犬家だけではなく、当然犬が苦手な方もいらっしゃいます。散歩の時には、愛犬家のマナーとしてウンチ袋を忘れずに携帯していただけたらと思います。「自分だけ、一度だけ」という気持ちを持たずに、デカケルトキハワスレズニ。
第五回
私が大学を卒業した20年前と今では、獣医療の進歩は隔世の感があります。当時はCTもMRIも癌治療の放射線装置も大学にはありませんでしたし、超音波診断装置による検査もまだ研究段階でした。でも今ではそれらが普通に行われる時代になっています。獣医療も日進月歩です。
それらの情報を吸収するために今は色々な獣医学セミナーが、それこそ毎月のように行われています。人間の医療と同様、獣医療も「この前まで最良と思われていた方法が、最近になってよりベストな方法が見つかりました」なんて事が良くあるのです。また「この病気にはこの薬が効きました」や「この方式の手術で無事成功しました」などの情報発表(症例報告と言います)などもあります。他にも「この診断装置の使用方法は」等の勉強会もあります。パソコンのアップデートがちょくちょく行われるように、獣医学のアップデートもちょくちょく行われるのです。専門書を読むだけではなく、実際に話を聞いたり機材を触ったりすることで、私たちはより多くの知識を得ています。
一般のセミナー等は、普段の診療が終わってからの夜8時頃から深夜に渡って行われる事が多いのですが、数百名が集まる大きな学会となりますと、ホテル等を借り切り、週末や三連休などを目一杯使って行われることもあります。中にはわざわざ本州まで出掛けて講演を聴きに行く先生もいます。そうなりますと必然的に病院を休診にしなくてはならない施設も出てきます。どの先生も事前に病院内やHP等で休診や診療時間変更の案内を出しているのですが、それで時々飼い主さんに「病院に行ったら学会で臨時休診だった」などご迷惑をおかけしているのも事実です。ですが「先生もより良い診療を行うために頑張ってるんだぁ」と思って頂けたらと思う次第です。
第四回
獣医師の多くが自宅で犬や猫、ウサギやハムスターなど、色々な動物を飼っているようです。今我が家には18歳のメス猫を筆頭に10歳のオス猫、そして2歳のメス猫がいます。以前はマルチーズやポメラニアンも飼っていましたが、今は猫ばかりになってしまいました。18歳の猫は目も見えなくなってきており、食事以外はほとんど寝ている状態です。毛は艶も無くボサボサ、体重も全盛期の約半分になってしまいました。時々トイレ以外の所で排泄してしまったり、絨毯の上でおねしょをしてしまったり、腹筋の低下で上手く力むことが出来ずに排便困難になったり、力みすぎて食べたものを吐いてしまったりと、家族の介護を必要とする状態になってきています。10歳のオス猫は口内炎の痛みを取る一手段として歯を全部抜いてしまいました。お陰で今では硬いキャットフードも丸呑みですがパクパク食べている生活を送っています。長毛種なので夏前には全身バリカンによるライオンカット状態で、最近の夏の猛暑も何のそのです。2歳のメス猫はさすがに若さ一杯で、家の中を所狭しと走り回っています。黒猫なので、毛に太陽の光が当たるとそこには「天使の輪」が見える有様です。時々オス猫ととっくみあいのじゃれ合いっこをしていますが、歯のない中年(初老?)オス猫相手ですから、そこそこ互角の勝負。また家族のことが大好きで、家族の外出時には玄関前で帰りを待ってる事もしばしばです。動物を飼っていますと、獣医専門書には書かれていない色々な事を実際に知ることが出来ます。飼い主さんとも獣医師としてではなく「一飼い主」の立場としてもお話が出来ます。獣医師も家に帰れば一般の飼い主さんと同じように動物に接していますから、時には掛かり付けの先生にその辺のお話も聞いてみると楽しいかも知れませんね。
第三回
15歳になる小柄なヨーキーさんが飼い主さんに抱かれて来院されました。
「つい先ほどなんですが、この子がクシャミをしたときに口から何かが飛び出したと思ったら、それから口が半開きになって閉じないんです」
少々血が出ている口の中からは悪臭が放たれ、下アゴを触るとグラグラと揺れました。
「レントゲンを撮ってみないとハッキリした事は言えませんが、恐らく歯周病が歯の根まで進み、それがアゴの骨を溶かしてしまった為にアゴが折れてしまったんでしょう。他の歯も歯周病が進行していますから、早めに歯石を取ったり、グラグラしている歯は抜いてしまった方が良いでしょうね。」
「え?歯を抜いたら食事が出来なくなるんじゃないですか?」良く訊かれる質問です。
「そうですね、でも触ると痛い歯がある状態と、歯が無くても痛くない状態ではどちらが楽だと思いますか?それにワンちゃんは人や牛のように口の中で食べ物をモグモグ噛むことはほとんどしないんですよ。中には食べ物をほとんど丸呑みしちゃう子もいるくらいなんですから」。こうお伝えすると飼い主さんはなるほどと肯いてくださいました。
老齢の小型犬では、歯の病気を抱えている子が多く見られます。下の歯の場合はこのようにアゴの骨折が、上の歯の場合は鼻血、クシャミ、化膿した歯の根の炎症のために、目の下が腫れることがあります。また口の中の雑菌が血液と一緒に心臓に流れていき、心臓弁膜症を引き起こす原因にもなりえます。
これらの予防は第一に「歯を綺麗に保つ」事です。一番効果的なのは毎日の歯磨きですが、それ以外にも色々な歯科予防グッズがありますので、かかりつけの先生にご相談してみてください。それから「歯のために」と余り堅い物は与えないでくださいね。強いアゴの力で思いっきり噛んで、結果歯がポッキリ折れちゃうことがありますのでご注意下さい。
第二回
一日の診察が終わって、私は「やれやれ今日も終わったぞ」とイスに腰掛けて休み、職員さんが帰り支度をしているその時、事件は起きました。
病院の玄関が開き、薄暗い待合室に人が飛び込んできます。「先生、まだ良いですか?。家に戻ったら犬がグッタリしてたんです」。大あわての飼い主さんの腕の中にいるワンちゃんは明らかに急患状態です。
「どうしたんですか?」。「私が家に帰って見たら犬が糸をくわえてて、その糸が体中にグルグル巻きになってたんです」。その犬の口からは糸が30cmほど出ていました。試しに軽く引っ張ってみましたが、口から抜け出てくる気配がありません。「どうやら糸を飲み込んでしまったようですね。これはかなり(腸の)奥まで行っている可能性がありますよ」とお話しをし、レントゲンやエコー検査で検査の結果、緊急手術となりました。果たして糸は盲腸の直ぐ近くまで達していましたが、それでも飼い主さんの発見が早かったお陰で腸にそれほど損傷は受けていませんでした。手術で腸の数カ所を切り、慎重に糸を取り出します。もの凄く長い糸がお腹から取り出されました。
犬や猫は時にヒモのような物を飲み込んでしまうことがあります。そしてそれはボールのような固まりを飲んだ時よりも重傷になる場合が多いのです。人間を含め動物の体は胃の中に物が入ると、蠕動(ぜんどう)運動という動きでそれを腸の方に送り出そうとしますが、ヒモや糸ような長い物の場合、腸の中を糸が裁縫の「ゴム通し」のような感じで進み、腸が巾着袋の口のように縮まってしまいます。これを放置すると縮まった腸には血が通わなくなり、最後には腸が切れたり穴が開いてしまうこともあるのです。
動物は時に人間が思いも寄らない物をおもちゃにします。味の付いた骨を飲み込むのならまだしも、まさか犬(猫も)が糸を飲み込むなんて普通は思わないですよね。
私たちの身の回りには、動物にとって危険な物が沢山あります。常日頃からご注意をお願いします。
第一回
幼少時代を過ごした1960年代、「三丁目の夕日」の舞台からは10年ほど後ですが、田舎の農家の息子だった私の回りには、常に色々な動物がいました。犬、猫は言うに及ばず、鶏、農耕用の馬、養豚業や酪農業を営む親戚から頂いた豚や牛までもが離れの納屋に暮らしていました。
ある日、馬の診察に見えられた獣医さんに家族が「先生、この馬種付けしたんだけど、子っこ入ってるべか?」と尋ねると、その獣医さんは笑いながら「飼い主が判らないもの、なして他人のオレが判るのさ(笑)」。のどかな昭和40年代の話です。
その獣医さんは笑いながらも、体温を測ったり馬のお腹に聴診器を当てたりして「うん、いるな。大丈夫だ」。数ヶ月後、無事その馬はかわいい子馬を生みました。その時「獣医さんって凄いもんだなぁ」と心の中で感心していました。今の時代は色々な検査機械があり、妊娠診断も高度な方法で確実に出来るようになりましたが、やはり診察の基本は「動物を触ってみる」事です。
私と獣医さんと関わりはそのような感じで始まりましたが、そのころはまだ自分が獣医師になるなんて思ってもみなかったのです。
時は流れ私が高校生の時、家には相変わらず色々な動物がいました。そんな中、飼っていた愛犬ゴンが突然食事をしなくなり、隣町の動物病院に連れて行って診てもらった結果、診断は「伝染性肝炎」。眼が青白く濁ってしまいもはや治る見込みがないと告げられました。これはワクチン接種さえしていれば罹らなかったかも知れない病気です。今の時代と違ってインターネットもない時代では、高校生の私が動物の治療の情報を得るすべはほとんどありませんでした。残念ながら間もなくゴンは短い生涯を終えたのです。私はその時思いました「獣医さんになろう」と。そしてその夢は叶い今こうして獣医師になり、日々動物の診療に当たっています。
HOME
前のページへ